
娘・Rの4才の誕生日であった。(写真は嫁がくり抜いたチーズ)
朝、早起きして速攻でプレゼントをあげようと思ったのだが寝坊して
「パパ、おーきーてー!」
Rと息子・タク(1才)に袋叩きにされて起こされる体たらく。慌てて飛び起きて
「はい、Rちゃん。誕生日おめでとう」
とプレゼントの包みを渡した。キョトンとしているRに
「開けてごらん」
と言うとRは恐る恐るガサゴソと包みを解き始め、そして

この「アンパンマンカラオケ」が出て来た時のRの表情といったらなかった。ぱあああっと喜びが満面に広がって
「パパ、ママ、みてみてー!」
と見せびらかして大はしゃぎ。
「あんぱんまんは、きみっさー!」
早速大合唱。親になってよかった、という無上の喜びのひとときである。ところがここでタクが異を唱えた。
「たっくんも、ぷれじぇんと!」
…言うだろうと思った。
「お姉ちゃんだけでごめんなー。でも今日はお姉ちゃんの誕生日なんだ。タクの誕生日は10月だから、その時はタクだけあげよう」
許せ息子よ。今は耐えてくれ、と言うのが精一杯であった。そしてそろそろ出勤の時間となったので
「タクにも貸してあげてね」
と声をかけて仕事に出掛けた。
この日、僕は半ば強引に仕事を切り上げ早めに会社を後にした。まだR達がおきている内に帰りたかったからである。
しかも花屋で買ったバラの花束を添えて。バラの花をRの年の数4本。色は紫。僕はRの「紫のバラのひと」になりたかったのだ!
「紫のバラのひと」とはマンガ「ガラスの仮面」に出てくる芸能会社・大都芸能の敏腕社長・速水真澄のことである。
仕事のためなら手段を選ばず、女優など商品としか思っていない堅物の仕事の鬼として恐れられていた速水は、この物語のヒロイン・北島マヤの迫真の演技を目にし、強く心を打たれる。
観劇の後、マヤに花束を贈ろうと思い付き、花屋で紫のバラを見付けそれを買い占めマヤの楽屋に向かう。

しかし悲しいかな、これまで女も寄せ付けず仕事一筋の生き方をしていた男が、11も下の少女にその心を素直に出せるはずもなく…

「あなたのファンより」とメモだけ残し、こっそり花束を置いて帰るのであった。
その後もマヤに対して表面上は「冷酷な辣腕社長と商品としての女優」というクールな態度を崩すことなく、しかし裏ではマヤに惹かれ、正体を悟られることのないようマヤに紫のバラを送り続け、その結果マヤを励ましたり救ったりすることになる。
「紫のバラのひと」とはいわば速水真澄の屈折した愛のかたちなのだ…。

僕も彼に倣い花束には「あなたのパパより」とメモを加え、完璧である。そして家に着くなりRに渡した。
「あなた…そこまでするか」
嫁は呆れていた。
「私の誕生日は超おざなりだったくせに」
という表情がありありと浮かんでおり、僕も我ながら恋人の誕生日のような気合の入り方だと思うがこれは仕方がないことである。長女は最大の恋人なのだから。
「早く大きくなれよ、チビちゃん」
僕はRに向かって紫のバラのひとになり切ったところ

「ちびちゃんじゃないもん!Rちゃんだもん!」
と言われた。

ああ、そのセリフ、まさしくマヤの…まさしくお前は僕の魂の片割れにして遺伝子の半分。
Rは花束を暫し眺めていたがツイと立ち上がり、朝贈ったアンパンマンカラオケを持って来た。そして僕にこう言ったのである。
「これ、うれしかったの。パパありがとう」
ズキュウウウウン。百万回のキスより熱く心をとろけさせるその言葉。もう死んでも良い。ありがとうR。本当はアンパンマンのカラオケ、ちょっとしょぼ過ぎかなあ…って思ってたのに…。
「いい子だわあああああ!」
嫁も咆哮していた。タクだけ不思議な踊りを踊っていた。
その後みんなで布団に入り、おやすみ。
「ままだっこ!ままだっこ!」
横たわる嫁によじ登るタクを尻目に、僕とRは窓から見える夜空を眺めながら並んで寝た。ひときわ明るく輝く、大きな星がポツンとひとつ。木星だろうか。
「パパ、あのおほしさま、ながれぼし?」
「ははは、流れ星はあっという間に落っこちて行くんだ。あの星が落ちたら大変だ」
ただこの幸せがずっと続けばいいという願いを叶えてくれるなら、落ちてくれてもいいなと思うのだった。
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