フタのために世界はあるの。

朝、寝巻き姿の娘・R(1才)と戯れていたら嫁の命令が飛んだ。

「あなた、Rを着替えさせて。ついでにオムツも取り替えて」

「はい。仰せのままに」

「あなた、好きでしょう?」

「…何が?」

「娘の服を脱がすの」

何でそういうミもフタも無いことを言うかな、この嫁は。
幼女誘拐魔が跳梁跋扈するこのご時世、よそ様に聞かれたら
あらぬ疑いをかけられるではないか。

「君、失礼じゃないか」

嫁には建前としてそう怒っておいて

「はーいRちゃん、脱ぎ脱ぎしましょうね、えへへ」

やはり娘の服を脱がせるのは好きだ。
この父にされるがままのRは大人しく僕に寝転がされ、
何やらチューブを手にし、弄んでいた。

弁当に入っている醤油入れのような、本当に小さなもの。
おそらく嫁の化粧箱から奪った乳液か何かだろうとチラリと
思っただけで、そのとき僕は気にも留めていなかったのだが…。

「お、ウンチョス出てますね〜くちゃいくちゃい」

臭いものにはフタであるとばかりに、Rのお尻と
のの様(女陰の意。のの様とは観音様の幼児語)を
丹念に丹念に拭き取り、うん、ちまみれのおむつを
くるくると畳んでいたら、Rが

「ひーん」

急に泣き出した。一体どうしたのだろうとRの手を
よく見てみると、先程から持っていたチューブに
フタがない。

「嫁、このチューブにはフタがついてたよね?」

「うん。フタが締まってるよ」

「…ないんだけど」

「ヒイイイイ!飲んじゃったー!」

不覚であった。Rのお尻とのの様に夢中で気づかなかった。
それにフタを開けられるほど器用になっていたとは…。

しかしRは既に何事も無かったかのようにキョトンとしている。

「…フタは小さいし、そのうち出てくるでしょう…」

「だといいんだけどな」

ミもフタも無い話から始まって
臭いものにはフタをしていたら
フタがなくなってしまったという話。

そういうわけでこれから数日の間は、いかなる疑いを
かけられようが僕が責任を持ってRのお尻とのの様を
凝視し、オムツ換えを行うこととなった。

いろいろな意味でドキドキである。

フタにフタタビ出会うまで。
.

嫁には言えないオフレコのオフ会。

300万Hit記念「第3回Simple公式オフ」に参加した。
オフ会である。

しかし嫁にはどうしても「オフ会」とは言えず。というのも
嫁からすると

「僕がオフ会に出る」=「ネットの女とちちくりあう」

という公式が出来上がっており、なかなか言い出しづらい。

「どういうオフ会なの!」

「女は何人来るの!」

などと警視庁顔負けの執拗な聞き込みをされるので
まことに面倒臭い。

もちろんこのオフ会も全く以って健全な飲み会であり、
嫁にも少しずつオフ会に対する誤解は溶けつつあるけれども、
まだまだ疑わしい目で僕を見るのである。 そんなわけで

「今日忘年会だからゴハンいらない」

とだけ告げて家を出て、帰って来たのが午前0時過ぎ。
嫁も娘・R(1才)もとっくに寝ていた。
腹が減っていた僕は、インスタントのカレー煮込みうどんを
作って食ってすぐ寝てしまった。

翌朝。むっくりと起き上がった嫁が開口一番

「あなた、昨日さあ…」

と言って来た。僕の心臓が飛び上がった。さては昨晩の
真実を掴んでしまったのだろうか。実は嫁は軍事衛星を
放っており、逐一僕の活動を覗いているとか…。

蛇に睨まれたガマガエルの如く、じいと嫁の顔色を
伺っておったら

「昨日の夜、カレー臭かった!」

とだけ言い放って洗濯物の整理に取り掛かって行った。
それだけだった。良かった。

すまん嫁よ。ここで詫びておく。申し訳有馬温泉。

夜中こっそりカレー煮込みうどんを食っていた君の夫は
煮ても焼いても食えないであろうよ。
.

ペ・40。

病み上がりの娘・R(1才)と伝染されて発熱した嫁のために
母が栃木からやって来てくれた。

「お前は会社ぐらい休めねんけ!」

母は栃木南部訛りできつく言う。

「ごめん。無理」

「そーいうとこ、お父さんと同じじゃねん」

「相手のある仕事だからしゃーなかんべな!」

僕も思わず栃木言葉が甦り逆切れしたものの、
母は朝早くから来てくれて嫁とRを見、夕方帰って行った。
ちなみに嫁は気合で38度の熱を一晩で平熱に戻した。
乳飲み子と、飯ひとつ作れない夫と、口うるさい姑の中に
あっては、頼れるは己の死力のみと悟ったようだ。

僕は夜に仕事から帰って来て、母が作ってくれたという
カレーを感謝しつつ食べていたら、

「んふふふふ。でへー」

Rが物欲しそうな顔をしてベタベタとまとわりついてきた。
明らかに僕のカレー皿を狙っている。しかしこんな辛いものを
食べさせるわけには行かないので

「ほら、これをあげよう」

これも母が持って来てくれた、栃木の女峰イチゴを与えたが
Rはしゃぶしゃぶしゃぶとあっという間に食いつくし、
なおも僕のカレー皿に迫る。

「あっ!」

一瞬の隙を突いてRが皿の中に手を突っ込んだ。カレーを
鷲掴みにし、口の中へもぐもぐと…。

「こら、辛いぞ。口から出しちゃいなさい。
 ぺ、しなさい。ぺ。よんじゅん」

きっと辛さのあまりて泣くに違いないと、吐くのを待ち構えて
いたのだが、Rはケンケンのような悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「でへへー」

意外にもイケル口だったらしい。

半場呆れながらRを見詰めて固まる僕を尻目に
Rはがっしゅがっしゅとカレーを手掴みで食べてゆく。

この子の前世はインド人ではないかとすら思った。
その証拠にちゃんと右手でのみ食べている。

こんなことならこの子の名前をRではなく「ハル」に
しておけば良かった。田島さんと結婚すればタージマハルだ、
なんつってうほほ。

ところがこれを見た嫁は慌てた。

「いい加減止めないと、お腹壊すわよ」

カレーの王子様を飛び越えて、いきなり大人のインドカレー。
本当にこれでインドー?

しかしRは腹を下すこともなく、次の日も残りのカレーを
ばくばくと平らげ、ますます前世インド娘説が信憑性を
帯びて来てしまっている。

本当にこれでインダス文明ー?
.

以心伝染。

嫁が吐き気を催し下痢になった。

「おかしいなあ。どうしたのかしら」

などと言っている内に、頬が何だか気仙沼ちゃんみたいに
(若い子は知らない)真っ赤になって来たので、体温を
計らせてみたところ

「38度7分」

いきなりハイスコアを叩き出し、とてつもなく慌てた。
下痢に高熱。これはついこないだまでの娘・R(1才)と
同じ症状である。伝染ってしまったに違いない。

「ああああ今だったらあの時のRの気持ちが分かる。
 吐き気もあるけど、Rは吐けなかったんだろうね。
 こりゃ辛いよ。Rもグズっていたわけだわ…」

嫁はフラフラになりながらRに「辛かったんだねー」
と慰めの言葉をかける。憐れな嫁…。

ここで良く出来た夫であればさっと粥でも作ってやり、
場合によってはタマゴ酒とか粋な物も添えてやったりするの
だろうが、生憎僕が作れるものはボンカレーが限界であり、
タマゴ酒どころかわかめ酒を準備してしまいそうなほどの
料理音痴である。

それを知った上で僕とツガイになった嫁には運命だと思って
諦めてもらいたいが

「ポカリとおでんと肉まんが食べたい…。
 あとスーパーでにんじんとみかん買ってきて…」

と言い出したので買い物ぐらいはする僕であった。

しかし嫁は思ったより食欲が出なかったらしく、逆に今では
チョコマカと元気に動いているRにばくばく食べられていた。

嫁の風邪の原因は無論Rからの伝染に間違いないが、
もうひとつ思い当たることがある。
それは前の晩、嫁と契ってしまったこと。

布団を剥ぎ取った段階で嫁は「寒い」と言っていたのだ。
しかし僕は暴走列車の如くに誰にも止められない勢いで
そのまま衣服までも剥いでしまった。

寒い寒いと嫁が繰り返すのも聞かず、嫁の脚を開いて
舐め回していたことも風邪の一因であるかもしれない。

ついムラムラしてやった。悪気はなかった。今は反省している。

風邪の股しゃぶろう。
.

サンタが愚痴りにやって来る。

娘・R(1才)の枕元に、セーラー服(風ベビー服)の
クリスマスプレゼントをそーっと置いた夜が明けて、

「あら、サンタさんがプレゼントをくれましたよ」

と、白々しくRに向かって演技をしてみせた。

およそ10才ぐらいまでは娘を僕の趣味に染めても
犯罪にはならないだろう。だからせめてその時までは
セーラー服を着て僕色に染まっておくれ。
娘よ。さあ受け取っておくれ…。

という父の熱い想いと共に手渡そうとしたところ

「だーう!」

気合と共に放たれたRの強烈な手刀で、べしっと床に
払い落とされてしまった。父の夢は潰されたハエの如く
無残にも葬られた。どうして父の愛が伝わらないの…。

確かに邪な愛かも知れぬ。しかし邪なだけに純粋なのだ。
いつか分かってくれる時が来よう。僕はそのように
分別のある娘に育てようと硬く心に誓ったのであった。
しかし分別があり過ぎるまで育ってしまって、

「じゃあパパ、コスプレしてあげるから2万円ね」

などという殺伐とした娘になってしまったらやだなあ。

ところでイブの夜はRが体調が悪かったこともあり、
クリスマスらしいことは何ひとつしていなかったので

「せめて雰囲気だけでも…」

と、嫁が小さなクリスマスツリーを出して来て、
灯を点した。この日一日ムギ球がチカチカと光り、
寝る時に消すまでちょっとだけ我が家をクリスマスっぽく
演出していたのであった。

自由の女神ポーズ
Rはちょっとだけサンタコスプレ。

翌朝、悲劇は始まった。嫁が起きてから言うには

「私、昨日の晩何度も吐いちゃって…」

とのこと。僕は熟睡して気付かなかったが…。
さてはいよいよふたり目の兆しか!と思ったが

「それにお腹が下っちゃって…」

どうも違うようである。

クリスマスツリーを設置した嫁が
クリスマスゲリーになってしまった。

猛烈に悪い予感が広がりつつ…続く。
.

キリスト御免。

クリスマスイヴは散々だった。

娘・R(1才)が前日に高熱を出し、それ以来寝ているか
愚図るかぼうっとしているか、というグダグダの体調
だったため、我が家の各種イベントは全て取りやめになった。

クリスマスケーキは無し。
僕が予約していたものを嫁が昼間取りに行くはずだったが、
Rを連れて外に出られないためキャンセル。

Rと嫁のサンタコスプレも無し。
サンタに扮したRにプレゼントを持たせ、

「お父さんハイ」

と手渡してくれるという、僕のハアトを狙い撃ちするような
素晴らしきイベントを嫁が考えていたらしいのだがこれもボツ。

「そんならただの平日じゃん」

ということで嫁はご馳走を作る気が失せたらしく、
七面鳥などが出てくることもなく、ただひたすら
茶褐色系の地味な夕餉をボソボソと食むのみであった。

せめてイヴのしめくくりは嫁と契りたい。
キリストには悪いが、僕はクリスマスイヴというのは
男女が大いにまぐわる夜である、と認識している。

世の中の雰囲気もカップルがひっつくように
無理矢理テンションを高めているし、そんな中で
契るエロスは一味違う。

だから。せめて。これだけは。

「サンタがママにキスをした」という歌があるではないか。
それ以上の事をしても無理はあるまい。いや、きっとしてるはず。
そう決意した時には嫁は既に寝ていた。僕は寝床に

「お父ちゃんサンタだよ〜ん」

こっそり忍び込み、掛け布団をバッとめくり、
嫁に覆いかぶさろうとしたら…。

既にRがダッコちゃんの如く嫁に覆いかぶさって
眠っていた…。

ずっと甘えん坊モードなのである。ひっぺがすと
ほぼ100%、起きて泣く。僕はそこまで鬼にはなれぬ。

枕元に嫁とRへのプレゼントを置いて、寝た。

結局、嫁の女陰には辿り着けなかった聖夜。
クリスマス恥部。
.

クリスマスプレゼントはセーラー服を。

娘・R(1才)へのクリスマスプレゼントは
何がいいだろうと迷っていた。

どうせ贈るのなら何年経った後でも

「1才の時はこんなものを贈ったね」

と思い出せるような素敵なものにしたい。
どんなものがいいかと嫁に助け舟を求めてみたら

「別になんでもいいよ」

めちゃくちゃ醒めた答えが返ってきた。昔はメルヘンな
クリスマスを過ごしたがっていた癖に、Rを産んだ途端に
ただひたすら現実生活主義な嫁である。

が、嫁はふと思い出したように付け加えた。

「セーラー服にすれば?」

「それだ!」

僕はセーラー服が大好きであり、それをRに着せる事が
無上の喜びである。しかし夏服しか買っていなかったので
しばらくRのセーラー服姿を愛でることが出来なかったのだ。
セーラー服がRへのプレゼントとなり、着た姿を見せてくれる事が
僕へのプレゼントともなろう。

「でも…セーラー服を探すあなたって、怪しく思われない?」

「ば、馬鹿な!」

1才4ヶ月の目に入れても痛くない娘のために、可愛いおべべを
探す父親…大義名分は立派にある。いくら鼻の下を伸ばしまくって
服を物色しようともこれを罰する法律は存在しない!

アイムノットギルティー!と、大見得を切って嫁に留守番を任せ、
池袋愛撫百貨店(仮名)子供服売場に来たものの、やはり女の子服を
手に取る事には照れがある。そのギクシャクさが店員に挙動不審として
映ってはいまいか。いや違う。僕は娘想いの良き父親なのだ。

「へへ…怪しいもんじゃないよ。おいらベロってんだ…」

自分にそう言い聞かせてセーラー服(正確にはセーラー服風の
ベビー服)を探してみたが、見つからない。
さ迷っている内にいつしかベビー服ではなく、もっと年齢が上、
というかギャル服の売り場に入り込んでしまった。

そこで見たものは…女子中高の制服!

いや、本物の制服ではなかった。学園もののエロスゲームに
出てきそうな、制服以上に制服っぽいブレザーやセーターや
スカート達あった。

セーラー服が大好きな僕は、無論そういった制服の類も大好きである。
子供服よりやはりこういう方が良い…15年後ぐらいにRに贈ってあげたい
なあ…と、それらの服の前で金縛りにあったように佇んでいたら、

店員が怪しげな視線で見ていたのでトンズラした。
嫁の予言どおりに怪しまれてしまった。あな口惜しや。
このような罠があったとは。

それもこれもこの百貨店が広大なのがネックであり、自力で探すことに
限界を感じた僕は「店員に聞くしかない」と決意した。
ベビー服売り場のエリアに戻り、その辺の姉ちゃん店員を捕まえて

「服を探しているのですが…」

「はい、どのようなものをお探しで?」

「えと、セ…」

「はい?」

どうしても「セーラー服」と口に出すことが出来ない。
「何だ制服フェチか」と思われるのでは、と恐れてしまい
戸惑ってしまい、遂には

「ま、マドロス風な…」

などという訳の分からないことを口走ってしまった。
しかし幸運なことにその店員は

「あの…ポパイみたいな感じでしょうか」

と、当意即妙に答えてくれ、

「そそそそそうです!それの冬もの!」

店員は僕の言葉を受け、見事に僕が欲しかったセーラー服
(風ベビー服)を持ってきてくれたのであった。

かくしてRのプレゼントを手に入れることが出来た。
あとは夜、枕元に置くだけである。

そしてその後の着せたり脱がせたりは僕の
お楽しみということで…。

ちなみに僕へのプレゼントはというと

「あなた、適当にお金あげるから好きなもの
 自分で買ってきて」

ということだった。そんなのプレゼントじゃないやい!
.

オヤジのハートに火をつけて。

娘・R(1才)がまた発熱。

近頃ようやく咳と鼻水が治まって来たように思えた矢先、
朝から38度。特に苦しんでいるようには見えなかったが、
心ここにあらずといった感じで元気がない。

「医者に連れてってね…」

仕事がある僕は嫁にRを託して出掛けた。いつもは嫁が
Rを抱いて玄関まで見送りしてくれるのだけれども、

「今日はいいからね」

部屋を出る時に制したのだが、Rはボーっとしながらも

「バイバイ」

と手を振っているではないか。

「君は何て可愛いんだああ!」

部屋の中心で愛を叫んでしまった。けなげな娘の愛しさよ。
しかしRは昼になって更に熱が上がったらしく、嫁から

「39.4度」

というメールが届いたので気もそぞろに会社から帰って来た。
Rは嫁の乳を吸っていた。

嫁が言うには医者に診せたところ、喉も腫れておらず、鼻も
それほどぐずってなく「突発性発疹」かもしれない、とのこと。
高熱が2〜3日続き、その後ボツボツが出来るんだそうだ。
ああ、出来ることなら代わってやりたい。

Rは一旦寝付いても辛いらしく、「ひえーん」と夜泣きをした。
いつもなら僕が抱いても暴れて逃げようとするだけだが、
この日に限っては僕の腕をしっかり掴み、静かに抱かれていた。

このような非常な発熱で体も心も弱り、とにかく甘えたいのかも
しれない。Rの体が湯タンポのように熱かった。

お父ちゃんの胸も火が付いたように熱くなってしまったことよ…。
.

時には娼婦のように、な娘。

夜、嫁が隣の部屋で娘・R(1才)を寝かし付けていたが、
僕がいる部屋にそーっとやって来て、襖をピタリと閉めた。

「もうRは寝たのか?」

「いえ、まだよ」

「?」

Rが寝る時はいつも嫁が添い寝をしている筈である。それに
最近のRは嫁を抱き枕にしたいのだろうか、嫁に思いっきり
しがみついていないと寝ないのである。

さては急に僕と夫婦のまぐわいを欲し、Rの目が届かないよう
こちらの部屋に来たのか…と思ったら違った。

「Rをね、ひとりで寝られるように試しているの!」

なるほど。嫁もRが寝付くまで身動きが出来ないのも困るであろう。
僕らは襖にへばりついてRの動きを探っていた。時々

「あぱぁ〜。むにゃむにゃ…」

Rの独り言が聞こえてきて、一体何をしているのだろうかと
襖を開けたくなる衝動を辛うじて抑えて、さらに待つ。

15分ぐらいしただろうか。静かになった。

「ちょっと見てみようか…」

僕は襖をソソソと音が立たぬように開けた。
暗い寝室にキュピィンと光るふたつのオメメがあった。
Rはまだ起きていたのであった。どうやら僕らが隣にいることは
分かっていたようである。しかし驚くべきことに、Rは無言で
仰向けに寝たまま、両手を後頭部に当てて「むっふーん」と…

(参考画像↓)



放課後キャンパス(※)をしていたのである。

「Rちゃんが『むっふーん』してるー!」

嫁は大爆笑で、最早ひとりで寝させる練習どころでは
なくなってしまった。暗い中でひとりでじーっと、
あのポーズをとり続けていた事がおかしかったのだろう。

しかし僕はある種の感動を覚えた。寝床でセクシーポーズを
作り、やがて入ってくる僕を待ち受けていた…。
なんと素晴らしい閨室の女であろうか。

最愛の女性にこんなことをやられたら、世の男は感動のあまり
涙と我慢汁で溢れてしまうであろう。それをわずか1才4ヶ月で
やってのけるとは。

「夜は娼婦のように」を地でいく幼児。R…おそろしい子!
しかし僕は

「でもそれはお父さん以外にはやっちゃダメだよ!」

と言い聞かせたのであった。

一方で…本来僕にそうするべきである嫁はどうであるか。
思うにそんなことをされたことは一度もない。近頃は
僕がいくら誘っても

「うるさい」

と跳ねのけされてしまい、全く相手にしてくれない。
まことに態度も大きいのである。

Rの「夜は娼婦のように」を見習ってもらいたいのだが
実態は「夜は将軍のように」なのである。
.

背後霊より怖い背後嫁。

デジカメで撮った1才の娘・Rのサンタコスプレ画像
(2日前の日記参照)をパソコンに取り込んで眺めていた。

隣の部屋でネットをやっている嫁にも見せてやろうと
声をかけたら

「見る」

とのことだったので待っていたが、なかなか来ぬ。
どうやらネットに熱心な様子。時間を持て余した僕は
他の画像フォルダを開き、整理などを始めていた。

やがて僕の生涯出会った中で1番の美少女Rちゃんの
専用画像フォルダに行き当たった。ここに僕が撮った
Rちゃんの全ての画像が保存されている。

これぞ僕のパソコンの中の最重要データであり、
3重のバックアップ体制をとっているのだ。
つまりそれほど僕は彼女に恋焦がれているということだ。

僕が片思いしてやまぬ、しかし現在は音信普通の幻の美少女。
ああ、そなたは何故わらわを避けるのじゃ…。

やはりRちゃんの名前をそのまま娘に付けたのが
キモイとか思われたのかなあ…。僕は良かれと思って
そうしたのだけれども…。

あ、そうそうこの写真。可愛いなあ…。ああこれも。これも…。
あの頃は楽しかったなあ…。そういえばRちゃんはあの時…。
えへ。うえへ。でへへへへへへ。

こうして感傷と妄想の写真鑑賞にどっぷり浸かっていたのが
いけなかった。

「なによ。RじゃなくてRちゃんの写真じゃないの」

いつの間にか嫁が僕の真後ろに立っており、
じいとモニタを覗いていたのであった。

僕は全身が総毛立ち、

「だー!わーっ!」

慌てて娘・Rの画像を呼び出したのだが時既に遅し。
人が暗殺される瞬間の気持ちを思い知ったのであった。

謎の東洋人スナイパーのような嫁。そして僕は…

僕の後ろに立つな。

ゴルゴ010(オット)。
.

「魂のかたわれ」を求めて、なんじゃわれ。

6年ぶりに単行本が発売された、大河演劇マンガ
「ガラスの仮面」にどっぷり浸かってしまい最早ダメである。

長い間待たされていた「ガラカメ」フリークとして再び血がたぎり、
作品中の「おそろしい子!」「なんて子!」などという独特で
インパクトのある言い回しの名台詞がついこの日記にも出てしまう。

ところでこの物語の中の劇中劇「紅天女」では、梅の精・紅天女と
仏師・一真の激しい恋が次のように語られるシーンがある。

神が人を地に降ろす時、もともとひとつであった魂を
陰と陽のふたつに分け、別々の肉の身に宿らせた。別れた魂は
出会えば互いに惹かれあい、ふたつに分かれたもう半分
の自分、「魂のかたわれ」を求めて止まぬという。

それが恋なのであると。

このエピソオドに僕は強く心を打たれるのである。
僕の「魂のかたわれ」とは一体誰なのであろうか…。

ま、誰も何も一応人並みではあるが恋愛して結婚しているの
だから、「わが嫁である」としておくのが至極当然であろう。

そんなわけで夜、僕は「魂のかたわれ」であるところの
嫁とひとつになりたくなったので、嫁が床に就いたところを
見計らい僕も布団に潜り込んだ。

しかし嫁はつれなく背をこちらに向けて寝ていた。

「なあ、おまえさま…私の『魂のかたわれ』…」

僕は嫁の尻をねっとりと撫でながら言い寄ったが

「はあ?」

ガラカメを知らぬ嫁は当然何のことだか分からぬ。

「人は『魂のかたわれ』を乞い求め…」

などと言っても嫁は最早見向きもせず、徹底無視の
狸寝入りを決め込むだけであった。

嫁自身は娘・R(1才)を産んで以来、そっち方面の欲は
全く失せてしまったらしいが、しかし、だからといって
これは冷たすぎる仕打ちではないのだろうか。

もう一度恨みがましく嫁の尻をねろりんと撫でてみた。
反応がなかった。既に本気で寝てしまったようである。

「魂のかたわれ」だと思っていたら単なる
「嫁のケツワレ」だったというお話。

こうして夫婦の仲は冷めていく。
.

コスプレ娘のクリスマス。

以前隣に住んでいたイギリス人・ジェームス君一家に招かれて、
クリスマスホームパーティーなどというハイカラなイベントを
行なった。

僕と嫁はこの日のために仕込んでおいたことがある。それは…。

photophoto

娘・R(1才)のサンタコスプレ。去年のクリスマスにも嫁に
無理矢理トナカイのコスプレをさせられ、不憫な娘ではある。
しかし僕はRにこの服を着せて白いタイツを履かせてみると、
過去の麗しい思い出が蘇って来たのであった。

それはRの名前のルーツであり、僕が恋焦がれて止まない
元近所にいて現在音信普通の、美少女Rちゃんである。

駅前のゲーセンでバイトしていたRちゃんは、毎年この時期になると

「かじり〜ん、どお?うふ?」

店に命じられたわけでもなく自主的にサンタコスプレを
やっていたものだった。真っ赤なサンタのスカートから覗く
白いタイツに包まれたおみ足は、最上級に可憐であり、
目が惹きつけられて離れなかったものだ。はあはあはあ。

photo

当時の写真があったので涙を浮かべて思い出に浸ることしばし。
約束の時間に遅れそうになり、急ぎ足でジェームス君の家に着いた。

集まったのは僕らともうひと組の家族で計3家族。
子供達はそれぞれ思うがまま遊び、ジェームス君はこの日のために
鶏を1羽まるまるオーブンで焼いてくれた。美味だった。

「ヘイ、ウィッシュボーン」

ガツガツ食っているところへ、ジェームス君が鶏の骨を持ってきた。
それは二又に分かれており、ちょうど「人」の形をしている骨で、
ふたりが両端を引っ張って折り、より長く残った人の願いが叶うという…。

僕はもうひと家族の旦那と引っ張り合った。

うりゃあ。べき。

…僕の方が短かった。願い事を叶えるチャンスを失ってしまった。
残念である。どんな願い事かというと、それは言わずもがな。

Rが美少女Rちゃんのように成長し、あと15年後ぐらいにも
今日と同じようなサンタコスプレをしてくれて

「お父さん、私がプレゼントよ、うふ」

というこれ以上ない親孝行をしてくれますように、という願いだ。

まじないごとに頼らず、毎年コスプレしてくれるように
教育することに決めた。

靴下を下げて待っていることにしよう。
鼻の下も伸びまくりそうだ。
.

お口の恋人で遊ぶ、僕の最後の恋人。

いざ買い物。

嫁の買い物に付き合った。嫁がスーパーで買い物を
している間、僕は娘・R(1才)を乗せたベビーカーを
転がしながら店内をうろついていたが、

「うきゃうううん、んぎゃぎゃぎゃ」

Rはすぐさま飽きてしまい、野犬の遠吠えのような声を上げた。
ベビーカーから出たいようだ。Rは自力で歩けるようになってから
まだ日が浅いので、自分で動きたいのだろうと思い僕は降ろしてやった。
するとRは

「でへへー」

待ってましたとばかりにヨチヨチと店内を歩き始た。僕は慌てて
後を追う。Rはやがてロッテガムの陳列棚のところでぴたりと止まり、
ガムを一個ずつ手に取り並び替えを始めてしまった。

たくさんの種類のガムがそれぞれの箱に収まっているのに、Rは
パイナップル味のガムをドラえもんのガムの箱へ、ブルーベリーの
ガムを梅味のガムの箱へ…と、もうごちゃごちゃである。

「R〜だめよ〜お店の人に怒られるよう」

「うきゃう!」

僕が注意しても邪魔するな、と反抗する。…おそろしい子!
ま、包みを破くわけでも汚すわけでもないからそのまま
やらせておこうと決めた。僕が元の位置に戻せばいい。

それでいいのですよね、微笑みの貴公子様…などと
ロッテガムのポスター相手に一人芝居をしていたら
嫁が「帰るよ」と呼びに来たのでRもようやくやめたのであった。

「へえ、じゃあRは棚おろしをしてたんだね」

家に帰ってからこのことを聞いた嫁は笑っていた。

そう、棚おろしだったんだよ。だから嫁、今夜は僕にも
週末の筆おろしをさせてくれー!ひとつになしましょうぞおまえ様…。

などと口説こうと思ったのだが、テレビでドラマの「ガラスの仮面」
を観ている内に眠ってしまい、僕の役目であるRの入浴の予定時間を
とうに過ぎても起きなかったのが嫁の逆鱗に触れ、とても言い出せなく
なってしまった。

また嫁のWEB日記にも酷く書かれるのであろう。
もう長いこと怖くて見ていない。

深夜の棚おろしどころか
日記にこきおろしになってしまったなこりゃ。
.

真夜中は別の顔の父娘。

朝から娘・R(1才)の熱烈なラブコールを受ける。
目覚めた時からニンマリと笑い、絵本を片っ端から
引っ張り出して「読め」と僕や嫁に催促する。

読んでやるとこちらと絵本を交互に見ながら「あだ」とか
「たぅー」とか
声を上げてとても楽しそうだ。

ああ、何て可愛い娘。

絵本に飽きたかと思ったら今度は両手を広げて
ダッコしてえ〜、もしくは手を繋いで〜、というジェスチャー。

抱いてやると上機嫌だし、両手を繋いでやると
キャアアアと雄たけびを上げて部屋中を歩き回る。

ああ、何て可愛い娘。古事記風にいえば、あなにやし、えおとめを。

しかし朝の時間というのは出勤で忙しいものである。
絵本を読んで〜と言われても着替えなきゃならないし
ダッコしてえ〜と催促されても歯を磨かなきゃならないし、
それでも無視するわけにはいかないので

「ちょっと待ってね」

しかし少しでも間を置いてしまうと、Rは差し出した本を床に叩きつけるわ
伸ばした手を広げたまま大泣きするわで収集がつかなくなるのだ。

メロメロなってしまうほどの甘えっぷりである一方、
夜になるとRの態度はがらりと変わる。

夜泣きでぎゃんぎゃん暴れだすので僕が抱いてあやそうとするのだが
全く僕を受け入れてくれず、全力で僕から逃げようとする。
もうかれこれ何ヶ月もこの状態である。

いったい何が違うのであろう。
Rなりの本能で夜の僕、すなわちミッドナイトファザーはかなり
エロスで危険であるということを察知しているのであろうか。
…フフフ。

昼間は淑女のように、夜は娼婦のように。

僕はRをこのように育てようと思っているのだが、今のところ

昼間は甘えん坊、夜は暴れん坊。

このようになってしまっている。…まあ、いいか。ちなみに父は

昼間も夜も甘えん坊の後、暴れん坊である。

しかし嫁にこの手は通用しなくなってきてしまったのではあるが…。
.

わたしのわたしの娘は〜左利き!…じゃなかった。

娘・R(1才)がボールを投げていた。

「たぅー」

舌っ足らずな気合と共にポイッと投げては拾い、また放る。

「Rは投げられるようになったよね」

その様子を見守る僕と嫁。

これまではRにボールを与えても、手に取ってシゲシゲと眺めたりして
投げて遊びたい素振りを見せるのだが、「投げの動作」をまだ体が
覚えてないのでボールを掌からポロリンと落とすのみであったのだ。

「右利きみたいだね」

「あ、そういえば」

嫁に言われて気付いたのだが、確かにRは右腕でボールを
投げている。ボールを掴む時は両手だが投げるのは右だ。

Rはつむじがふたつあったり眉毛が太かったり便秘気味だったり、
どうでもいいことに限って僕に似ている。つまらないことばかり
遺伝させやがって、と自分の精子を恨んでいるのだが利き腕は
似なかったらしい。

僕は左利きなのだ。

ま、利き腕は遺伝ではないと思うけれども、これはこれで
良かったと思う。

僕は字を書くことと箸を持つことだけではあるが、親に強制的に
右利きに直させられたし、自動改札は通りづらいし、あまり
いいことはない。

左利きマイノリティの辛さを味わうのは僕だけよい。
Rに恨まれずにも済む。

わーたし忍苦のサウスポー♪
.

ガラスの仮面…夫婦。

「ガラスの仮面」というマンガがある。
長い間続いていて、単行本を一度読み出したら最後、
一気に読み倒さなければならなくなる中毒性がある。

しかしこのところ連載が止まっており、続きが読みたくて
ヤキモキしていたのだけれども今日、遂に6年ぶりに単行本が
出る事になった。

すぐにでも買って読みたいところだけれども、僕は仕事で
本屋に行けそうにない。そこで嫁に頼もうと思った。

「あの、嫁、お願いがあるんですけれども…」

「はあ?」

恐る恐る話を切り出したのだが、既に嫁は詐欺師を見るような、
あからさまに嫌がっている態度で僕を睨んだ。

…おそろしい嫁!

「ガラスの仮面を本屋で買ってきて欲しいんだけど…」

「自分で買えばいいでしょー!昼休みにでも抜け出せば
 いいじゃん!」

あっさり見事に断られてしまった。
…おそろしい嫁!

「いや、うちの会社、昼休み短くて…残業中も忙しくて
 本屋開いてる時間に帰れそうにないし…」

「ダメ。R(1才の娘)も風邪引いてるし、あまり
 外に出たくないの」

嫁がマンガを買ってくれない天女ー!
まるで取り合ってくれなかった。

僕のオタクな趣味になぞに付き合ってられるか、という
呆れっぷりである。もうちょっと

「アナタのためならしょうがないわ!」

みたいな愛の絆があってもよさそうなものなのに。
こうまで脆い夫婦関係だったとは。

ま、夫婦関係などというのも、こうしていちいち
呆れられることが積もり積もっていつ崩壊するか
分かったものではないものではあるが…

壊れそうなものばかり、集めてしまうよ〜。

そりゃガラスの10代だ。
.

負けーて悔しい朝イチ揉んめ。

朝、目覚ましの音で起きるのだが

「眠い、あと5分」

などということを都合3回ぐらい繰り返していたら
嫁に怒られた。

「どうせ起きられないのならそんな早い時間に目覚まし
 鳴らさないでよ! 私とR(1才の娘)も起きちゃうんだから!
 あなたはすぐ2度寝でも3度寝でも出来るだろうけど
 私とRは出来ないの!」

ということで…甚だごもっともでございます。

寝る前は「余裕を持って出勤できる時間」に目覚ましを
設定するのだけれど、起きた時はどうしても
「バタバタしないと間に合わない時間」まで寝ていたい
ものである。しかしそんな切ない乙女心を受け入れる
余裕は嫁にはなかった。

Rが夜泣きするたびに叩き起こされ、睡眠時間を
削られまくっている嫁としては死活問題なのであった。

ごめんなさい…嫁…全面的に謝って、殺伐とした空気が流れた
我が家の今日の朝。昔はこんなはずではなかった。しかし

「あなた〜起きてウフフ」

などと嫁に優しく起こされていた甘い朝は、既に遠い過去の記憶。

「別のところも起きちゃったでへへ」

と、若き力に任せ朝からおっぱじまったりしたのも昔むかしの物語。

嫁が慢性的寝不足であり、Rがわりと朝早く起きてしまう
現状ではもうそんなことは出来ない。出勤前にRと戯れることは
それはそれで大きな楽しみではあるのだが…。

朝っぱらからでも契りたかったら契り、
また日が高くなるまで貪るように眠る。

あの昔のような気だるくも怠惰で甘美な朝は、
もう二度と戻ってこないのだろうか。

一日でいいから昔に戻り、白い壁に「堕天使」って書いて、
デカダン酔いしれ暮らしたい。そして…

ズームイン朝を見ながら
ベッドイン朝であればベストである。
.

嫁が編み出した迷惑メール完全除去方法。

沈鬱な顔の嫁がいた。

「12月になってからパソコンのメールが全然来ないのよ。
 定期に来るメールマガジンすら来なくて…あなたは
 メールちゃんと受信できてる?」

「うん、来てるけど」

返事がとてつもなく遅いせいだろうか、友達やサイトの
メールフォームからのメールは悲しいほど少ないが、

「私を虐めて下さい」

とか

「私の処女を35万で貰って下さい(当方27才女)」

といったメールは山ほど来る。残念ながら僕はマゾ且つ
ロリコンなので興味はない…。僕と嫁は同じ回線を使っている。
嫁だけ来ないということは嫁のパソコン内に問題があるはずだ。

僕は嫁のメールソフトをいじってみた。虐めてメールや
処女貰って下さいメールのようなSPAMを避けるために
メッセージルールというものがある。

**@**というアドレスから来たメールはサーバーから削除する、
とかそういう設定である。それがあやしいと思った。

原因はすぐ分かった。

なんと「すべてのメール」を「サーバーから削除する」
というメッセージルールを作ってしまっていたのだ。
これでは誰が嫁にメールを出しても、メールボックスに
届く前に削除されてしまうではないか。

僕はその設定を解除し、僕のパソコンからメールを
送ってみた。瞬時に「ウホッいい男」と書かれた、
まごうことなき僕からのメールが届いた。

「嫁。そんなわけで直ったよ」

「どうして?!どうしてこんな設定を作っちゃったの?」

…知るか。嫁はしばし愕然としていたが、突然

「キャアアアア!」

慟哭とも悲鳴ともつかぬ声を上げ床に突っ伏した。

「オイ…どうしたんだよ…」

「なんか、自分のバカさ加減に呆れ果てて…」

「ま、ヤギさんに食べられたと思ってさ…」

僕は嫁を思い切りからかってやろうと思ったのだが
自己嫌悪のズンドコに陥った姿を見て、慰めるしか
なくなってしまった。

「どうしよう…ひょっとしたら今まで貰ってたはずの
 メールがあったかも知れないのに…」

「めぼしい人にメールで聞いてみれば?」

「ど、どんな風に書いて送ったらいいのォ!」

「分かったよ。文を考えてやるから…」

「あああ、私ったら本当にバカ…」

しょぼくれる嫁と苦笑いでフォローする僕は
わりといい感じの夫婦像なのではないか、と
嫁の苦悩をよそに悦に浸っていた僕であった。

メール受信できるようになったお礼に、僕の、その、
棒のようなものも受信してくれないかな〜。
.

フンヅマリーの赤ちゃん。

娘・R(1才)が便秘気味で3日ほどお通じがない。
お腹は狸のようにポンポコリ〜ンと出っ張っていた。

「お腹が詰まっているせいか、今日のRは
 なんとなく大人しい気がするわ…」

Rは今日もチョコチョコと家の中を歩き回っていたが、
嫁がそんな風に観察していたある時、Rが急に動きを止めて
仁王立ちのまま顔を紅潮させ、プルプルと震えていた。

これはもしや踏ん張り中では…と思い、頃合を見て嫁がRを
寝っ転がせ、オムツを取ってみた。

「あっ!ちょっと!これは…」

嫁の驚きの声に釣られて覗いてみたが、僕も声を上げて
しまった。オムツにあったのはお通じの産物ではなく、
何とポツリと付いた血の跡であったのだ。

子供の成長は早いと聞いていたが、Rもいつの間にか
初潮を迎えたのだなあ…ということでは勿論なく

「痔なのかなあ。固くなってるから」

「とりあえずお通じを良くさせましょう」

嫁は育児書をめくり、僕に指示を出した。

「あなた、Rのお腹を『のの字』にマッサージして!」

「はい。わかりました」

「それから綿棒でお尻の穴をツンツンして刺激するの。
 あなた、やる?」

「いや、それはちょっと…」

「何で?あなた好きじゃないの」

「…何が?」

「アナル攻め」

「わー!それとこれとは話が違う!」

嫁が臆面もなくRの前で話をするので、僕のほうが
『床にのの字』状態になってしまい赤面した。

嫁の体であれば油田を掘り当てる如き勢いで、容赦なく
ガンガン撃ち込むが、未だ汚れなきRの繊細な部分に
そのようなことは出来ない。エロスな意味ではなく、万が一
Rの部分にもしものことがあったら…という恐れがあるのだ。

嫁は僕が既に娶っているのでよいが、Rに対しては僕は責任の
取りようがない。

僕は女体の取扱いはガサツだし手馴れてる訳でもないので、
お尻刺激だけは女親の嫁に任せようと思ったのである。

それに女体は男のそれより複雑だと言うではないか。

女体の便秘。
.

文字通り、夫を立てる嫁。

いざ嫁の秘めやかな奥地に突入せんと、手や舌のあらゆる技を
尽くして弄んでいたところ、

「大陰唇とダイオキシンはゴロが似ている…」

とか

「小陰唇と超妊娠はゴロが似ている…けど超ってどんなだ」

といった些細なことが頭に浮かんだ。その隙を察知されたのか
嫁が突然僕のヘビさん(口が縦に割れている珍種)を鷲掴みにし、叫んだ。

その内容をそのまま書くことは出来ないが、要約すると
臨戦態勢になってない、硬くなってない、立ってない、
そのようなことを示して非難したのである。

「馬鹿野郎、カカシじゃあるめえし年中立ってる訳ねえだろ!」

と反論しようとしたが、女体を目の前にし、今まさにまぐわらんと
している男がエレクトしてない、というのは確かに女性にとっては
失礼なことなのかもしれないと思った。ダジャレを考えてたから…
などとも嫁に言えず。

嫁はなおもヘビさんを離さず「立て!」とばかりに文字通り
「シゴキ」にかかった。そこは僕も未だ10代から変わらぬ
高感度を維持している自負がある。

エレクトには自信がある。子供の頃やってたから。
そりゃエレクトーンだ。

見よ、たちまちヘビさんはムキムキとマッスルハッスルし、

「ほれ、これでいいだろう。準備万端」

エブリタイムオーケーなところをアピールしたのだが

「えー。まだまだ。八分咲きってとこよ」

嫁は桜の開花予想をする気象予報士の如く冷静な目で
言い放った。僕自身よりも僕自身のことを把握している…。
おそろしい嫁!

嫁は娘・R(1才)を産んでからこのかた、育児について
勉強しテキパキと子育てをしており、頭が下がる思いだった。

しかしそれだけではなかった。

肉親だけでなく肉棒についても
エキスパートだったのである。
.

乙女の怒り。

9日は会社の忘年会だった。

僕はそれをポックリと忘れており、当日の昼間に慌てて

「僕ちん今日はゴハンいらない」

嫁にメールした。我が家では飲み会がある時は必ず事前に
「飲み会許可申請及び晩御飯辞退申請」を届け出ねばならぬ。
また飲み会が長引き、午前様になる場合はそれに加えて
「帰宅日付変更願い」が必要である。

この届出を守らなければ、酔いが一瞬で吹っ飛ぶぐらい恐ろしい
嫁の制裁が待っているのである。直前ではあるが約束どおり
事前に嫁に知らせた。これでよしと安堵の溜息をついていたところへ

びびびびび。

ケータイが震えた。嫁からのメール返信である。すわ、何か
よからぬ返事でも…と恐る恐る見てみると

「今日はRカレーの日なのにバカー!」

わあ。やはり怒りのメールであった。Rカレーとは我が家に伝わる
風習で、娘・R(1才)が産まれた8月9日を記念し、毎月9日は
必ずカレーを食べることになっている。

由来は嫁が産気付いた時、僕がカレーをかっ食らっていたことによる。

せっかくの月イチイベントなのに忘年会とは間が悪かった。
しかし職場の忘年会は欠席することは付き合い上出来ない…。
メールには画像も添付されていた。開いてみると

photo
娘・R(1才)の泣き顔ではないか。ゴメンよR。許してくれ。
お父ちゃんはしがない薄給取りなのだ…。分かってくれ…。

そんなわけで忘年会の間、酒を飲んでは

「カレー食いてえ…」

上司と話していても

「カレー食いてえ…」

このことが頭からずっと離れないでいたのであった。

そして翌日の晩飯において

「はいよ、Rカレー。一日寝かせたカレーは一層美味しいでしょうよ」

嫁が恨みがましくも恩着せがましくカレーを恵んでくれ、
僕はようやくありつけることが出来たのであった。
ああ、やはり美味い…と貪るように食べていたが、

「あれ…なんかポンポンが痛いんだけど…」

ものの見事に腹を壊してしまう羽目となった。

「痛んでたんだろうかね?」

トイレから出て来て嫁に聞いてみたのだが

「隠し味にRの怒りと悲しみが入っていたのよ、きっと」

とピシャリと叩き付けられ返す言葉もございません。

一晩置いておいたたカレーは、僕の体内に一時間も
置かれることはなかったのである。
.

100%片想い〜♪マイステューピッドララバイ。

僕のすぐ隣で娘・R(1才)が寝ている。

いつもなら僕・嫁・Rの順で川の字になっているのだが
たまにこういうことがある。

このイレギュラーなシチュエイションに僕は
心がときめいてメモリアルになるのである。

例えるならば、まだ付き合って間もない彼女と
一緒に寝る時のドキドキ感やムフフ感とか、
そのような初々しさ溢れる感動。

これって恋なのかしらん…。いや、親心もあるから
単なる恋心以上のものだろう。たぶん。

しかしRはつれない。夜泣きで起きてしまう時、
僕がいくら抱いてあやしても決して笑ってくれない。
それどころか余計に絶叫し僕の腕から全力で逃れようとする。

でもいいの。アタイ、こうして一緒に寝られるだけでいいの。
みんなはアタイのことアバズレだって噂してるけど、
心の純潔だけは守ってきたんだ(誰だよ)

思えば僕が長い間片想いしている、元近所にいた美少女Rちゃん。
その恋しい女の子に少しでもあやかってもらいたい…
という思いでRちゃんの名前をそのまんま娘に名付けた。

Rちゃんの名を受け継がせると同時に、一方で僕は
片想いの心を計らずも受け継いでしまった。

しかしRは何れどこぞの男に連れて行かれてしまう。
でもいいの。

それどころか今でさえダッコを拒否される始末。
でもいいの。いいの。ぶらいあんい〜の。

今夜もRをあやそうとしたがギャンギャン泣かれ、
嫁に奪い返されてしまった。それでも僕は同じ
家の中で暮らし、同じ布団の中で眠る幸せを
しみじみと味わって寝るのであった。

母よ母よと泣くRよりも
泣かぬおやじが身を焦がす。
.

親子父いらず。

久しぶりに早く仕事が上がった今夜。

愛する娘・R(1才)はまだ起きているだろうか。
休日以外は出勤前のわずかな時間しかRに会えない
辛さがある。

待っててオクレ、マイラブリードーテイ…
じゃなかった、マイラブリードーター。

お父ちゃんと熱い放尿…
じゃなかった熱い抱擁を交わそうぞ。

しかし家に着いてからその野望は途絶えた。
Rは既に入浴を終え、嫁の腕の中で乳を吸っている
ところであったのだ。こうなるともうRは寝る寸前。
口はチウチウ動かしているが、瞼はトロウンと下がり、
意識は既に夢の世界へ羽ばたいている。僕が頭を撫でて
やっても全く気付かぬ。

仕方のないことだ。しかしその寂しさに

「Rへの愛が足りない!」

昨晩嫁に言われたのがわりと堪えているのか、
頭にその台詞がぽわんと浮かび、消えた。
僕はひとり奥の部屋でモソモソと着替えを始めた。

すると…

「ふやああん」

Rがグズる声が聞こえた。いつもだったらこのまま寝てしまうのに
珍しいことよ、と思い振り返る、なんとRが嫁の腕を振り解き、
僕の方をカッと見定めて手を広げているではないか。

なんだ、やはり僕が帰ってきたことを分かってたんじゃないか。
それで抱っこしてちょ、と手を差し伸べているのだ。
おお、なんて愛い奴。

「R〜!お父ちゃん帰ってきたよ〜!」

さあ今こそ抱き合おう。僕は嫁からひったくるようにRを
掬い上げた。Rはニッコリ微笑んで…となると思ったのだが何故か

「ウギャアアアア!」

余計に泣き叫ぶのであった。慌てて嫁に戻すとRは何事もなかったかの
ように再び乳をチウチウ吸い始めた。

「もう。この子は何をしたいんだか」

嫁は苦笑いするのだが僕には分かっていた。

「父より乳を選んだってことだ。ただそれだけのこと…」

また今夜もロンリネスでダークネス、そして
クリネックスな夜となった。
.

抱かれてくれたら、いいのに♪

娘・R(1才)の夜泣きがすごい。

未だ鼻風邪をひいていて、息が苦しいのだろうか。
しかし僕がいくら抱いてあやしてもダメなのである。

朝は「ダッコシテー」とばかりに両手を広げてくるのに
夜は力の限り体を反らして抜け出そうとする。
お前は羽化するトンボか!

仕方がないので嫁にバトンタッチすると、ピタッと泣き止む。
それから布団に入ると、嫁の胸に覆いかぶさり抱きついて
離れないのである。

「これじゃ何も出来ないよう」

困った顔をする嫁。実は困っているのは僕も同じだ。
僕も今まさにRがしていることを嫁にしたいのである。
契りたいのである。これじゃ何も出来ないよう。

「じゃあお父ちゃんと一緒に寝ようか」

試みに嫁からRを奪取してみたが

「ひぎゃあああ!うぎゃあああ!」

やはりこの世の終わりが来たかの如く泣き叫び暴れ出した。
再び嫁のところに戻すとまたピタリと泣き止む。

「なんで僕じゃダメなんだよう…父の愛が足りないのだろうか」

僕が途方に暮れて呟くと嫁は

「足りないね!愛がまるで足りていない!」

ゲーセンやネットや美少女にうつつを抜かしている僕を
ここぞとばかりに強烈に批判した。そうなのだろうか。
僕は僕なりに娘に愛を傾けているのだが、余の父親と
いうものはもっと家族ベッタリなのであろうか?

Rは嫁にへばりついて、やがて嫁もRも眠りに落ちていった。
結局娘も抱けず、嫁も抱けない甲斐性無しの僕は
一人寝床で思い悩むのであった。

嫁は娘の抱き枕。
僕は寂しく濡れ枕。
.

この日なら いいよと君が言ったから 師走7日は美少女記念日。

些細な出来事があった日をいちいち記念日と称して

「今日は何の日だ〜?」

などとニタニタ確認して来、知らぬと答えようものなら
鬼女の如く怒り狂ういわゆる「記念日女」が往々にしている。

僕はこれを「阿仁場沙里奈さん(あにば・さりな)」と名付けて
忌み嫌う。しかし嫌いだからで済まされる訳がないのが男女の仲。
僕の嫁はそこまでひどくはないが、とりあえず怖いので入籍した日と
嫁の誕生日ぐらいは抑えている。

そんな記念日嫌いの僕が敢えて記念日と指定するのが今日、
12月7日である。

忘れもしない去年のこの日、僕はずーっと片想いし続けていた
美少女Rちゃんと再会した。

Rちゃんは17才の頃から近所のゲーセンに勤めていた女の子で、
ゲーセン常連だった僕は深夜毎晩のように遊びに行き、おまけに
文通などもしたりして、僕は誠に清く美しいオヤジ純愛を育んでいた。

それがゲーセンを止めてから連絡が取りづらくなり、やがて
半年ほど音信普通が続いた後、突然Rちゃんから連絡が来て
再会できたのである。

嫁と産まれて4ヶ月目だった娘・Rとも対面してもらい

「娘の名は君のをそのまんまもらったよ」

「それって変だよ!」

などと嫁に遠慮しいしい言っていたのが昨日のことのように
思い浮かぶことが出来る。

しかし再会した日は同時に最後にあった日になってしまった。
あれからまたプッツリと連絡が途絶えてしまっている。
何故かは分からない。僕が嫌われてしまったからだろうか。
それならそうと言ってくれれば僕も諦めがつくのにさ…。

あれから1年。Rちゃんと同じ名前の娘は無事に成長して
僕と同じ布団に寝ている。出来ればRちゃんともこうして…
ええい、筆が滑った。ともあれ、机に飾ってある写真スタンドの、
Rを抱いたRちゃんの写真を見るたびにこの記念日のことを
ゆめゆめ忘れるまいぞと胸に刻み付けるのである。

…ふと。

テレビの上にも写真スタンドが飾ってある。それに目が留まった。
僕と嫁の結婚披露宴の写真だ。僕らは7月7日に籍を入れ、
その約半年後に披露宴を行った。

これは確か12月1日のことであり…ヒイイイイイ!

籍を入れた日は覚えていても披露宴した日はすっかり忘れていた!

もう6日も過ぎているではないか。豪快にスルーしてしまった。
…最近嫁の機嫌がよくなさげに見えたのはこのことか?

言うのは止めておこう。来年まで気付かぬフリを通すのだ。

結婚披露宴の記念日を言ってみたところで「何を今更」と
血痕疲労怨になるだけである。怖くて話せない…。
.

ハイヨーシルバーな人々。

午前中、娘・R(1才)を遊ばせるため近所の公園に出かけた。

しかし公園の大半は老人達のゲートボール場として
使われてしまっていた。

「週3回はゲートボール場になってしまうのよ」

と嫁。え。そんなに?練馬老人達はお盛んでお達者なようだ。
仕方なく僕らは公園の片隅でRの一人歩きの練習を始めた。

ようやく一週間前ぐらいからイヤイヤすることなく靴を履くことに
慣れたR。しかしどうしても老人達が転がすボールが気になるようで
エッチラオッチラとゲートボール場の方に行ってしまう。
何個か使われずに置いてあるボールをRは目敏く見つけ、

「あだ!」

遂には手に取って僕に見せるのであった。

「あはは…それはおじちゃんおばちゃん達が使うのだから
 持って来ちゃダメだよ」

それでもRは他に転がっているボールを執拗に探しては見つけ、
その度に持ち上げたり「あだー!」とか言ってぶん投げる。

「お前は孫悟空の生まれ変わりか!
 それはドラゴンボールじゃないんだぞ」

などとRを追いかけていたら

「ふぁふぁふぁ。可愛い子だねえ」

背後から皺枯れた声に呼び止められた。振り向いてみると、
さかきばらのぶゆきの様な、体が微かに震えているご老公が
立っていた。先程からゲートボールに励んでいた御仁だ。

「ああ、どうもすいません」

僕はRの手からボールを取ってお返しした。ご老公はカクカクと
受け取るとRに向かって

「お嬢ちゃんがこのボールに興味を持つのはまだ早いねえ。
 あと60年ぐらいしたらまたおいで」

そう言葉をかけて去っていった。なかなか重い言葉であった。
ご老公!60年後には僕もあなたも絶対この世にはいません!

僕はご老公を目で追い、再びゲートボールを始めたさまを見ていた。
ゲートボールのルールってどんなもんなんだろう?と。

コの字型のゲート目がけてクラブでボールを打っていく。
だからゲートボールというんだろうけど…やはりよく分からなかった。

それを見て僕が試みたことといえば、夜中、嫁のお股にある
頑強な門(ゲート)をこじ開け、深い穴を目指して突入することだった。

昼はゲートボール。
夜はゲートホール。目指せ週3回。
.

嫁が裁いて僕捌かれて。

風呂が沸くまでのちょっとした待ち時間。
嫁は洗濯物とかを畳んでいたと思う。

娘・R(1才)は僕にフニャフニャと甘えて来たので、
抱き上げて歌でも歌ってやるかと、低音ヴォイズを
轟かせることとした。

「ん〜ん〜〜んんんんん〜。んんんんん〜。
 んんんんん〜ん〜」

「ぎゃはははははは」

何故かRに大笑いされてしまった。

「…嫁よ」

「はい?」

「どうしてこの子は『大岡越前のテーマ』がそんなに
 面白いのだろう?」

「いつもと違う歌だからよ」

嫁は特段大したことでもない、といった感じでぴしゃりと答えた。
あの、嫁様、もうちょっとさ、夫婦の会話っていうか、そういうのを
少しでもいいから広げてみようよ…。

我が家では育児・Rに関することは嫁が法律である。だから
こういったことでもビシビシと断言する。言わばこれが嫁の
大岡裁きといったところだろうか。

やがて風呂の準備が整った。

「じゃあRちゃん、とと様とお風呂に入ろうね。
 ん〜ん〜〜(まだ歌ってる)」

「ぎゃはははは」

早速Rの服を脱がしに掛かるが、腕や頭が引っかかって
どうもうまくいかない。ふごふごとRが悶えるのを見て

「ちょっと何やってるのよ!脱がす時はまず
 腕を袖から出さしてどーのこーの…」

再び嫁がピシピシと僕に指図する。そんなに怒らなくても
いいじゃないか。僕ちゃん奥手だから女の子の服を脱がすの、
慣れてないの。

いつも僕がRの世話をしようとすると、すさかず嫁から
このようなダメ出しを食らう。そんな時思うことがある。

僕は一応この一家の主だがバカ殿であり、嫁は眉を顰めながらも
家の切り盛りする御台所様でありRの生母である。家の中のことは
亭主であっても男が口出しすることとは許されていない…
このことであった。

そんな嫁の辣腕っぷりは…

ん〜ん〜〜んんんんん〜。

大奥裁きと呼ばれます。なんつって。
.

レモンと悶々。

昨日、嫁が作った餃子を食べながら思い出した。

餃子は故郷栃木の県都、宇都宮の名物であったことよ。

名物である証拠に、宇都宮駅前には「餃子の女神像」という明らかに
「やってしまった…」感が漂うオブジェがある。栃木県人は餃子を
神にまで祀り上げた世界で唯一の民族なのである。

それと隠れた宇都宮名物がもうひとつ…

その名も「レモン牛乳」

「牛乳にレモンの果汁を入れると固まるんじゃなかったか…?」

栃木を知らない友人に話したら、このようなことを言われたが
心配は無用である。牛乳瓶には「果汁0%」と堂々と明記されており、
自らをバッタモノと認めている潔い商品であった。

見た目からして牛乳に絵の具をぶちこみ、無理矢理黄色くしたような
ケミカルな色合い。味もレモンとは程遠くミルクセーキに近い。
飲むと舌にザラザラとした感触が残り、間違いなく早死にしそうな
爽快感を与えてくれた。

同じ栃木でも僕が住んでいた南部では見たことがなく、宇都宮に遊びに
行く度にこれを買って飲んでいた。友達へのお土産にしたこともある。

餃子を頬張りながらアレは今でも売っているのだろうか…と思い
調べてみたら驚いたことにまだ健在であった。ネットの記事によると、
レモン牛乳の製造元である関東牛乳という企業は廃業になったものの、
それを惜しんだ栃木乳業という会社が製造を引き継いでいるのだそうだ。

なんだ、僕の実家がある町の会社じゃないか。

そうすると、現在はおらが町の駄菓子屋辺りでも売ってるかも知れん。
今度実家に帰ったら探してみよう。そして嫁にも飲ませてやるのだ。

いにしえの乙女達が頬を染めた言葉に「ファーストキスはレモン味」
というものがある。僕らもふたりでレモン牛乳を飲めば、現在の倦怠感
溢るる夫婦間にも、付き合い始めたあの頃のようにレモンの香りが乗った
新鮮な風が吹くかもしれない。

ときめきの恋心が蘇ったならば、すさかず本場栃木の餃子をたらふく食う。
ガンガンぶちこまれたニンニクにより精力がUP。その餃子パワーにより
夜は激しく燃え上がりOH!モーレツ!ということには…ならないかねえ。

小川ギョーザ。
.

餃子の合掌。

夜中、嫁に飯の支度をしてもらっていたら
その物音で娘・R(1才)が起きてしまい泣き出した。

僕がRを抱いてあやしていてもRは

「ふえ、ふえ」

身を乗り出して嫁の方に行きたいらしく

「はいはい。あとはお皿に乗せるだけだから」

嫁に抱っこをチェンジ。フライパンを手に取ると、今日の飯は
餃子であるらしい。早速餃子を皿に盛りつけようとしたのだが

「あの…餃子がフライパンにくっついて離れないぞ」

嫁の作る餃子はこういったことが多い。嫁はあら、おほほと
照れ隠しの笑いをした後、Rを更にぎゅっと抱きしめ

「私とRも一心同体!くっついて離れないの!」

などと言ってごまかし、先程僕が抱っこ拒否されたことを
強調し、私がRと一番仲がいいのよ、ということをアピールした。

「あのね、そもそもその前に僕と君がくっついて
 離れないことをしたからRが出来たんじゃないか」

と面白くない僕はそう反論しても

「そうだっけ。そんなことは忘れたわ」

とても冷たい返事をよこすのみであった。仕方がないので
皮がめくれあがった餃子をひとり寂しくボソボソと食べたのだが、
皮が固くて固くてとてもよろしくない。しかし嫁には怖くて
言えなかった。何故ならば

「あの…皮が固すぎるんだけど」

などと言っても

「私とRも一心同体!固い絆で結ばれているの!」

そうごまかすに決まっているだろうし

「あのね、そもそも僕が固い棒のようなものを使ったから
 Rが出来たんじゃないか」

と面白くない僕はこう反論しても

「そうだっけ。そんなことは忘れたわ」

またとぼけられて夫婦の仲の冷たさをまざまざと再確認
する羽目になるのだろうし。

餃子も冷たけりゃ嫁も冷たい今日この頃。
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「積木」とかけて「努力」と解く。その心は『どちらも積み重ねが大事でしょう』

弟が娘・R(1才)にくれた積木がある。
Rはこれを気に入っている。時々積木の箱に入って

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自ら「箱入り娘」などという持ちネタを披露している。

さて、Rは深夜にムクリと起き出すことがままある。
すぐ寝てくれればいいのだが、おもちゃを漁り出してしまう。
この日は積木の箱に手が伸びた。しかしRは自分でうまく積木の
箱を開けることが出来ない。そこで

「んでゅ?んでゅ?」

文字にするとこんな風になるだろうか、Rはこんな声を発した。
何かをして欲しい時に発する声だ。この場合は「箱を開けてよパパン」
という意味である。

「もう。積木は明日よ!」

傍らの嫁はRの夜更かしを制しようとするのだが

「んでゅ!んでゅ!」

一方でRは聞く耳持たず、声が大きく荒くなって行く。
僕も「早く寝ようね」などと言ってRを寝かそうとするのだが

「んでゅ!んでゅ!…プギャアアアア!」

Rは遂に泣き出し、手を振り回して箱をばんばん叩き、他のおもちゃを
掴んでは投げ始めた。

Rがこんなに反抗するとは驚きだった。いつもはおもちゃを
他の子にぶん捕られてもポケーとしていることが多いので、
穏やかな娘であることよ、と思っていたのだ。なかなかどうして、
本当は結構な癇癪持ちであるのやも知れぬ…。

「プギャアアア!プギャアアア!」

Rはいよいよ爆竹のように泣き叫び始めたので

「嫁よ、ごめん。僕は甘い父親なんだなあ」

積木の箱をぱかっと開けてやった。嫁は苦笑いしていた。
Rはピタリと泣き止み、早速積木を鷲掴みにする。僕もいくつかを
手に取り、縦に積んでみた。するとRは嬉しそうに

「だーーーーー!」

がっしゃこ、と叩いて崩してしまうではないか。もう一度積んでみる。

「だーーーーー!」

がっしゃこ。何度繰り返してもRが狙いすまして崩してしまう。
ぼ、僕は一生懸命「積木タワー」と作ろうとしてるのに邪魔
するんじゃない!しかしRにはウケている。叩き崩すのが面白いらしい。

仕方がないので僕は一つ積んでは娘のため…二つ積んでも娘のため…
賽の河原の餓鬼のように繰り返し積んでいく。

これぞまさに「積木くずし」

昔流行ったドラマの名前である。娘がグレにグレまくって
家庭が崩壊してしまうドラマ…。これはRもそのように
なってしまうという予兆なのであろうか?

Rのあばれはっちゃくな素質の片鱗を垣間見た思いである。
そうなると昨日の日記にも書いたが、やはりRに冬服のセーラー服を
買い与えて着せなければなるまい。

そのココロは無論「セーラー服ときかん坊」である。

(古いドラマタイトルが続くなあ…)

Rはしばらく積木に飽きそうもない。僕は嫁に向かって

「Rも積木くずしに夢中なことだし、僕らも松葉くずしに
 夢中にならないかい?」

と、夜のお勤めに誘おうとしたのだが…既に寝ていた。

「んでゅ?んでゅ?」

Rの真似しておねだりしても嫁の耳には届かないのであった。
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ブルセラプレゼント。

僕は今月が誕生日だったが、プレゼントは
クリスマスと一緒で、ということで嫁から
おあずけを食らってしまっている。

もっとも大して欲しい物がないのでこのことに
根に持っているわけではない。

ある朝、嫁が娘・R(1才)を着替えさせるために
タンスを漁っていた。

「そういえば最近Rのセーラー服姿を見てないな」

僕は制服モノが大好きである。無論嫁にもそのような
服を着させたことがあったが、セーラー服を着させたら
池袋のイメクラ嬢(店名:まいっちんぐくいこみ先生)
のようなうらぶれた場末感しか漂って来ず、体操着+
ブルマを与えたら単なるママさんバレーの奥さんみたいに
なってしまって萎え、紛い物の限界を感じて落胆したので
あった。

やはりこういったことは現役の少女にやってもらうしかない!
というわけで早くからRに期待し、僕はRに子供用のセーラー
服を買ったのである。しかし嫁は答えた。

「あれは半袖の夏服でしょ。もう寒くて着せられないわ」

「冬服はないのか?」

「ないわよ」

「…」

「…」

「僕へのプレゼントはそれだー!」

こうして僕の誕生日クリスマス合併プレゼントは決まった。

嫁には懲りずにメイド服でも買ってやろうか。しかし
市原悦子のような家政婦みたいになったらどうしよう。
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