ペ・40。

病み上がりの娘・R(1才)と伝染されて発熱した嫁のために
母が栃木からやって来てくれた。

「お前は会社ぐらい休めねんけ!」

母は栃木南部訛りできつく言う。

「ごめん。無理」

「そーいうとこ、お父さんと同じじゃねん」

「相手のある仕事だからしゃーなかんべな!」

僕も思わず栃木言葉が甦り逆切れしたものの、
母は朝早くから来てくれて嫁とRを見、夕方帰って行った。
ちなみに嫁は気合で38度の熱を一晩で平熱に戻した。
乳飲み子と、飯ひとつ作れない夫と、口うるさい姑の中に
あっては、頼れるは己の死力のみと悟ったようだ。

僕は夜に仕事から帰って来て、母が作ってくれたという
カレーを感謝しつつ食べていたら、

「んふふふふ。でへー」

Rが物欲しそうな顔をしてベタベタとまとわりついてきた。
明らかに僕のカレー皿を狙っている。しかしこんな辛いものを
食べさせるわけには行かないので

「ほら、これをあげよう」

これも母が持って来てくれた、栃木の女峰イチゴを与えたが
Rはしゃぶしゃぶしゃぶとあっという間に食いつくし、
なおも僕のカレー皿に迫る。

「あっ!」

一瞬の隙を突いてRが皿の中に手を突っ込んだ。カレーを
鷲掴みにし、口の中へもぐもぐと…。

「こら、辛いぞ。口から出しちゃいなさい。
 ぺ、しなさい。ぺ。よんじゅん」

きっと辛さのあまりて泣くに違いないと、吐くのを待ち構えて
いたのだが、Rはケンケンのような悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「でへへー」

意外にもイケル口だったらしい。

半場呆れながらRを見詰めて固まる僕を尻目に
Rはがっしゅがっしゅとカレーを手掴みで食べてゆく。

この子の前世はインド人ではないかとすら思った。
その証拠にちゃんと右手でのみ食べている。

こんなことならこの子の名前をRではなく「ハル」に
しておけば良かった。田島さんと結婚すればタージマハルだ、
なんつってうほほ。

ところがこれを見た嫁は慌てた。

「いい加減止めないと、お腹壊すわよ」

カレーの王子様を飛び越えて、いきなり大人のインドカレー。
本当にこれでインドー?

しかしRは腹を下すこともなく、次の日も残りのカレーを
ばくばくと平らげ、ますます前世インド娘説が信憑性を
帯びて来てしまっている。

本当にこれでインダス文明ー?
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