ユー・カッタ・チャンス

娘・R(3才)の幼稚園で行われる盆踊り大会が執り行われた。

僕は浴衣姿のRを見たかった。夏はいい。水着姿も見れるし浴衣姿も見れる。しかし平日だから当然仕事でありその夢は叶わなかった。

本来は先週の土曜日の予定だったのだが、グレートタイフーンが来襲して真空ハリケーン撃ちな天候だったので順延されたのである。

Rの浴衣姿が…浴衣…ユカタ…ユタ、イイトコヨー。行きたかったのに。

仕事から帰ってから、嫁が撮ってくれたビデオを見せてもらった。

さくらんぼ柄の赤い浴衣をふうわりふうわりなびかせながら盆ダンスを踊るRの姿がそこにあった。

「あわわ…なんて可愛いんだ…」

モニタの中に飛び込んで行きたい。モニタ越しですらこれだけ可憐なRを生で見たかった。さすれば、見つめて、寄り添って、そして抱きしめて…。ビデオを見れば見るほどおあずけを食らった犬のような気持ちになり、可愛さ余って虚しさ百倍のもどかしい気持ちになってしまった。

嫁はデジカメでも撮っており、それも見せてもらった。その中に見知らぬ男の子とRがふたりで写っている画像があった。

「なんだこの子は」

どこぞの男とふたりきりで写るなんて許せぬ。僕は速攻で画像消去しようとしたところ嫁に止められた。

「この子はリュウ君。Rのクラスメイトよ」

「仲いいんか」

「リュウ君はRのことが大好きらしいのよ」

「なんだとー!!」

ああ、遂にRに言い寄る男が現れた…恐れていた日がこうも早く来るとは…。

「リュウ君って家で『Rちゃんがすき。およめさんになって欲しい』って言ってるんだって」

「ダメだ。許さん。ダメ。絶対」

「それでリュウ君のママに一緒に写真撮ってって頼まれちゃってさ」

「僕がいれば絶対に許可しなかったのに…」

「でもリュウ君はいい子なのよ。ハキハキしてるし優しいし…」

「僕は騙されん。男は狼なのよ。気をつけなさい」

「あんな男の子がRを好きだなんて母として光栄だわ」

「ダメダメダメダメ。ダーメダメヨ!消せ。その画像」

「やだ」

ああ、今日また誰か、乙女のピンチ…。

嫁はやたらとこのリュウとやらの馬の骨に肩を持つが、僕にはRを狙う色魔か妖魔にしか見えなくなっていた。

盆踊りといえば昔は夜通し行われ、踊りながらもいつしかさりげなく輪を抜けて暗がりに消えていく男女、という若者のみだらな行為のチャンスの場でもあった、という一面を持っていた。幼稚園の盆踊りは昼間だったけれども、このようなハレの場であるからくっつきやすい雰囲気は少なからずあろう。

まだ幼稚園児ではないか、とも思うが実際リュウという色魔もしくは妖魔が現れてしまったではないか!

妖魔が踊りながらRを狙っている…なんて恐ろしいイベント!

やはり僕も行けばよかった。雨天で順延するにも盆踊りは休日にやってもらいたいと切に願う。Rに近寄る妖魔を駆逐するために。

妖魔の休日。

盆オドリー・ヘプバーン。なんちて。

問題:Rが浴衣姿を見れる次のチャンスはいつでしょう?

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