台風と共に去りぬ

栃木からやって来ている母。

娘・R(3才)と息子・タク(1才)と一緒に風呂に入って

「たっくんったら、私の裸見て『おばあちゃん、かっこいー!』って言ってたのよ。そんなこと言ってくれるのたっくんだけだわ~おほほほ」

大層ご満悦であった。僕の裸を見たって

「ちんちん!」

ぐらいしか言わないのに、エキセントリックでメタボリックな母の体をどう見たらかっこいいのか。タクはデブ専+老け専なのではないかとメランコリックになりつつ、眠りに着いた。

そのせいではないだろうが、午前4時半という変な時間に目が覚めてしまった。その物音を聞いて母も封印が解けた魔人ブウの如く起き上がった。

「お母さん今日帰るよ。台風が来てるから家が心配で」

「そうだね。早い内に帰った方がいいと思うよ」

折りしも台風4号が紀伊半島にあり、関東に向かっている最中。

「電車大丈夫かなあ。ちょっとネットで調べてくれっけ?」

「…うーん、動いてないみたいだね」

「えっ?ど、どうしよう」

「朝の4時半じゃどこも動いてないよ」

「まあ。この子ったら」

「母さんはおっちょこちょいだな、アハハ♪」

「こら、親をからかうと承知しないゾ☆」

後半の気持ち悪い口調はウソだが、こんなやりとりがあり朝飯を食べて母はすぐ帰ることになった。

「じゃあ僕が駅まで送っていくから」

母の荷物を持って出掛けようとしたところ、タクが

「たっくんも、でんしゃ!たっくんも、いくの!」

僕も電車に乗りたいんだ、僕も連れてけ、と泣き叫ぶではないか。

「タクはママとお姉ちゃんと留守番しててね。雨が降ってるから、タクがおんもに出ると濡れちゃうからね」

「たっくんも、あめー!」

説得するも、雨でも上等と譲らない。

「風も強いからお家にいなさいね」

「たっくんも、かぜー!」

お前は宮沢賢治か。

嫁がなだめすかしている隙にようやく家を出た。道すがらニコニコしていた母。

「いやー。Rもタクもホントに可愛いね。タクなんかお母さんの体見て『ばあちゃん、かっこいー!』って…」

「それ昨日聞いたじゃないか」

よほど嬉しかったらしい。

「あなたもまた栃木来てね。じゃあね」

「うん。来月行くよ」

母は駅の改札口でチラリと寂しそうな笑みを浮かべて去って行く。その後姿が些か頼りなさげに映った。やはり老いたのだろう。

体も一回り小さくなったような…いや、それだけは逆にまた太ったようであり、ますますメタメタなほどメタボリックであることよなあ…と見送った。

家に戻るとタクはまだ泣いていた。

タクは甘えんぼリックである。

問題:別れ際、いらないと言ったのに母が無理矢理僕に渡したものは何でしょう?

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