おは尿

「パパ、起きないね」

という娘・R(3才)の声で目が覚めたような気がする。

少し目を開くと明るい光が差し込んできたので、もう朝なのであろう。夢心地のままもう一度目を瞑り、耳に入って来るRと嫁の声をしばらく聞いていた。

「パパ、まだねてるの」

「そうだねえ」

「Rちゃん、おしっこしたいの」

「早くトイレに行っておいで」

「パパとトイレにいきたいの。でもパパ寝てるの」

「早くパパが起きるといいねえ」

というような会話があって、やがてRが近付いてくる足音が聞こえ、

「パパ、おきてー」

ポンポンと叩かれた感触が肩に伝わって来た。

Rは僕が家にいる限りは僕とトイレに行きたがる。朝イチのトイレは特に甘えん坊モードなので、毎朝僕がだっこして連れて行く。そんな訳で起きなければなるまい。

考えてみればこれは寝起きが超悪い僕を起こすのに非常に有効な手段である。例えばこちらは眠くてしょうがないというのに

「パパ、起きて!休みなんだからどこか連れてって!」

と闇雲にねだられたとしてもなかなか寝床を離れる気にはなれぬであろう。しかしこの「パパとトイレに行きたいから起きて」は違う。俄然起きる気になってしまう要素が3つもある。まずは

「パパと一緒じゃなきゃダメ」

という気持ちが強く伝わって来るのがひとつ。次に

「いつまでも娘と一緒にトイレに行けるものではない」

という期間限定的プレミア価値があることがひとつ。いつまでも甘えてだっこを迫ってくる訳ではない。いつまでも娘のパンツを脱がせられる訳ではない。いつまでも用を足している間のRのお股を眺め、拭いてあげられる訳ではない。このトイレでの一連の幸せなひとときは、もし気まぐれにでもRの心境が変化し、「自分でやる」と言い出したらもうそれ以降永遠に味わえなくなるのである。あなたたけに!今だけのチャンス!なマルチ商法的誘惑。

そして最後のひとつは

「放っておくとおしっこを漏らしてしまう」

このことである。よって僕はまだまだ眠かったが取り敢えず起きた。

「あ、ぱぱ、おきた」

「Rちゃん、おはよう」

「ぱぱ、おきたー」

「タク(1才の息子)、おはよう」

ふたりの子供達が飛び付いて来て

「ぱぱ、おしっこ、いくー」

早速Rが急かす。しかし僕はやはり眠かった。時計を見ると目覚ましが鳴る10分前の時間であった。

眠いからあと10分ぐらいならば…いやいや何よりもRが漏らさない内におしっこさせなければ…でも眠い…やっぱり寝ていたい…しかししかしRとのプレミアタイムが…

散々迷った挙句

「うーん。ごめん。あと10分寝かせて…」

僕は眠気に屈してしまった。

「ぱぱ、おしっこー」

「ごめん…暫し時間をくれたまえ…」

10分だけの猶予を求め、布団に崩れ落ちたのであった。

これを「おしっこー猶予」といいます。

問題:朝のトイレはいいのだが、ちょっと心配なことは何でしょう?

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