参観全席

この日を待っていた。

嫁からもらったチラシをワナワナと震えながら眺めていた僕。

娘・R(3才)が通う幼稚園の授業参観日である。日曜日に行われるということは、父親に来いと言っているようなものだ。いつの日か授業中のRの姿を見てみたかった。Rを幼稚園に送ってもいつも外でバイバイしなければならないので、それが心残りであったのだ。

吉原遊郭の大門にある柳の木は、遊んで帰る客が名残を惜しんでこの柳のあたりで振り返った、ということから「見返り柳」の名があるが、まさにそんな心境である。幼稚園にはそんな趣のある柳はないので、別れた寂しさを抱えつつ帰ってウナギの寝床で「寝返りウナギ」になるだけなのである。

そんな僕に授業参観はまたとない朗報。いつもは「月火水木金正日」とかいうバカなTシャツを着ているが、ビシッとスーツで決めていかねばなるまい。

できればビデオも撮りたいが、そういう雰囲気ではないだろう。もっと厳粛とした教育現場のはずである…と思ってたら

「あなた、撮影係よろしくね」

と嫁に言われてしまった。

「え、いいの?」

「たぶんあなたみたいなオヤジ達が必死でビデオ回してるはずよ」

そんな公開エロビデオ撮影みたいに言わなくても。

もっと緊張感溢れる教室を想像していたのだがそうでもないらしい。尤も僕が小学校の授業参観日を勝手にイメージしていたので、幼稚園と小学生は随分雰囲気が違うのだろう。

あの地獄のような小学校の授業参観日…場末の熟女専門ソープランドのような禍々しい化粧の臭いに溢れ、背後にずらりと並んだ熟女ソープ嬢、じゃなかった母親達の痛いほどの視線を感じ、ものすごいプレッシャーであった。

そのわりに油断していた僕は教科書にうんこの絵などを落書きしていたので、わざわざ教室をツカツカと横断して来た母親に殴られたものだ。

恐らく僕はそこまで熱くならないけれども、Rと仲良くしている男の子がいたらやはりツカツカと教室を横断してその男の子を殴ってしまわないよう気を付けねばなるまい。また、願わくば僕も童心に帰って授業を受けたいのだけれども、

「せんせえ、僕も3才でしゅ。3才と384ヶ月でしゅー」

「帰って下さい」

このように殴ったり浮かれ過ぎたりで追い出されないよう心掛けるばかりである。追い出されたら帰るのみなのだから。

さらばー、娘よー♪旅立ーつバカはー♪

授業参観ヤーマートー!

問題:Rの担任の先生に聞いておきたいことは何でしょう?

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