布団がふっとんだ。犯人は嫁。

夢の世界にいたのに急に現の世界に呼び戻されたのは、嫁が僕の布団を引っぺがして寒くなったからだと、目を開けてから気付いた。

時間を確認すると起床予定時間の30分前であり、何故そのようなことをするのだろうか、と寝惚けた頭で考えていたら、どうやら嫁は掛け布団のカバーを洗濯するようであった。

なかなかマメな家事をする嫁であることよ…と感心したが、洗濯のためなら寝ている天使のように安らかに眠る旦那の布団をも剥ぎ取ってよいのか、という真っ当な怒りが込み上げて来た。

「洗濯ー!洗濯ー!さっさと洗濯ー!」

ある朝目覚めると嫁が引っ越しおばさんになっていたことに気付いた…なんてグレゴール・ザムザも真っ青である。しかし唐突に掛け布団を略奪され、寝起きで頭が回っていない僕は殻を失ったカタツムリの如く無力で、

「嫁…布団…かけて」

弱弱しく懇願するのが精一杯であり、「顔にかけて…」とおねだりするAV女優になった気分であった。

「R、あなたの布団をかけてあげて」

嫁は面倒臭そうに娘・R(3才)にそう指示した。自ら手を下さないところを察すると、家族の中で一番最後まで布団に突っ伏している夫など、モンキッキーと改名したおさる以下の価値しか見出していないのだろう。一方Rは

「はーい。たっくん、おいでー」

と素直に返事をして息子・タク(1才)を呼び、共に僕の枕元に寄って来た。やはり娘は優しい。

「ああ、君達ありがとうね…」

ふたりの天使達の手により僕は再び眠りの世界に行くのだ…と瞼を閉じた。

「じゃあたっくん、いくよー」

Rがタクに教える声が聞こえる。きっとふたりで布団を持ち上げ、僕にかけてくれるのだろう…そして布団が僕をふわりと包んでくれるのだ…と待ち受けていたら、

「せーの、ぱぱ、起きてー」

「ぱぱ、おっきってー」

Rとタクは交互に僕をボコボコ叩くではありませんか!暖かい布団の抱擁どころか激痛が走った。

「うわあああ!違う!違うんだ!やめてくれええ!」

「ぱぱ、起きてー」

「ぱぱ、おっきってー」

天使と思ったらとんでもない悪魔だった。このふたりの小悪魔は僕に布団ではなく顔に白い布をかけに来たに違いない。もう彼らから逃げるように起床するしかなかった。まさに最悪な起床。

「Rちゃん、パパを起こす時はチューして起こしなさいとあれほど言ってるのに、どうしてできないの?」

「ぱぱ、おしっこー」

「トイレ行きなさい」

「やだー。ぱぱと行くー」

Rを問い詰めても聞く耳持たず、僕に甘えて尿意を訴えるばかりだった。尊皇尿意かっつーの。

「あら、漏れちゃうといけないから早くトイレ行きなさい」

小悪魔の総元締めであるところの嫁サタンもそう言い、既に僕の起床についての訴えを聞いてくれる者はいなかった。最早これまで、と僕は屈服しRをトイレに連れて行くしかなかった。

悔しいのでRのパンツを半分だけ下げるに留めた。

「あとは自分で脱ぎなさい…」

起床半ケツである。

問題:僕が起きるとすぐ、タクがおねだりしてくることは何でしょう?

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