花の散るらむ洟の出るらむ

嫁の誕生日が明けた早朝。

娘・R(3才)も息子・タク(1才)もまだ寝ていた時、嫁が苦笑しながら言った。

「Rがよくままごとで『たんじょうびおめでとー』とかやってるでしょ?」

「うん、やってるね」

Rはままごとをよくやっているのだが、その中でも「誕生日ごっこ」がお気に入りのようで、ケーキを作る真似事をしたりして、

「きょうはままのたんじょうびです。はい、けーきでーす。はっぴーばーすでーとーゆー」

などと歌っている。嫁はそのことを言っているのである。

「でも昨日に限っては全然やってくれなくてさー」

「そりゃ昨日がお前の誕生日だなんてRには分からないだろう。やったとしても偶然だよ」

「偶然でもいいから『ママ誕生日おめでとう』ってRの口から聞きたかったな」

母の日でも僕がカーネーションを用意し、メッセージを書き、手渡しするのだけは子供達にやらせよう、と考えていたら嫁に断られた。ヤラセをしてもらっても意味がない、子供達が自分の意志でやってくれてこそ嬉しいのだ、という考えの嫁である。この発言も分かるような気がした。

こんな話をしていたらRもタクもむっくり起き上がったので

「R、ちょっとこっちにおいで」

僕はRに手招きをして隣の部屋に連れ込んだ。

「なーにー?」

「ママにな、誕生日おめでとう、って言っておいで」

もう誕生日は終わってしまったのだが、そう言うようにヒソヒソ声で耳打ちした。しかしRは

「わかんない!」

声が小さ過ぎたらしい。もう一度Rの耳を寄せてヒソヒソと囁いたが

「わかんない!いやあああ!うわあああん!」

どうやら耳をいじられるのも嫌なようで、泣き出してしまった。そうか、嫁に似て耳を攻めると弱いか…じゃなくて、Rにはまだそのような策略は通じないようであった。

「ごめんな、パパが悪かった」

もう少し前もって入念に仕込めばよかった…と泣いてるRをだっこして部屋に戻った。そしてタクに視線を移すと、なんだか女の子っぽい。よく見たら女の子用の肌着を着ているではないか。

「なんでだ?胸にピンクのリボンなんか付いちゃって、まるで女の子みたいじゃないか」

「Rのお下がりに決まってるでしょ!」

「面白いから写真撮っておくか」

昨日嫁にプレゼントした花束をタクの側に持って来て、「はいタク、にっこり笑ってー」とパチリ。

タク
撮ったこの写真を嫁に見せたら

「雁屋崎みたい」

ひどいコメントであった。よく見たらハナミズが垂れているし。

「ほいタク、チーンできるか?」

ティッシュでタクの鼻をぬぐった。花も恥らうハナミズ息子、か。

すなわちハナカミ王子である。

問題:僕の母から貰った花も一緒に写せばよいのに、と嫁は言ったのだが
   気が進まなかった。何故でしょう?

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