薔薇薔薇事件

普通に朝起きて普通に家を出て普通に会社で仕事して、普通に文書作ってたら

「今日の日付は6月4日。6月4日…なんか見覚えのある日付のような…ってギャース!」

嫁の誕生日であった。一昨日ぐらいまではしっかり覚えていて、プレゼントどうするかなあ、などと日記にも書いてあったくせに、当日になったらすっかり忘れていた。

朝、「おめでとう」も何も言わずに会社に来てしまったことであるよ。これは帰りに何か買って行って白々しくプレゼントするしかないか…と思った。まさに手ぶらで帰れぬ状態。

仕事を早めに切り上げ、無い知恵を絞り、どんなプレゼントが良いのやらと考えた結果、オーソドックスに花束がよかろうとの結論に至った。花といえばバラであろう。

僕の好きなマンガ「ガラスの仮面」において、速水真澄という芸能プロダクション会社社長は、女優・北島マヤに対して特別な感情を抱きつつも

「仕事の鬼と言われるこの俺が…!相手は11も下の少女なのに…」

と悩み、その結果、マヤに悟られないように彼女の人生の節目節目に紫のバラを贈り続け、「紫のバラのひと」として影ながら応援していたのである。

そんなわけでバラといえば紫のバラである。ロリコンなところといいストーカーっぽいところといい、僕にピッタリだ。早速花屋に赴き、紫のバラを所望したところ

「ありません」

「じゃ、普通のバラでいいです…」

見事打ち砕かれた紫のマラのひと。しかしそれでも見事な花束を作ってもらい、それは惚れ惚れするような美しさであった。嫁なんぞにあげるのはもったいないとすら思った。

「百万本のバラのー花をー。あなたにあなたにあなたにあーげーるー」

もう気分は加藤登紀子であり、この歌を歌いたい気分。花束を抱え歩いて家に帰ると子供達は寝ていたが嫁は起きていた。

「嫁、誕生日おめでとう。ラ・ビ・アン・ローズ。花言葉はジュテーム…」

「あら、あなたも?」

「あなたも…とは?」

何かいやな予感がした。

「あなたのお母さんもお花送ってくれたのよ」

なんと、部屋の隅には既にもうひとつの花束が飾られてあったのだった。母め、なんというメルヘンなことを。嫁姑というものは普通もっと殺伐としているであろうに。おかげで僕のプレゼントの効果が半減してしまった。

そんなわけで

「あなた…ありがとう…このお花奇麗ね…」

「ふふ…お前のほうが若干奇麗だよ…多分」

「ウフーン」

といった展開にはならず、

「じゃ、ごはんたべる」

「うん」

極々普通の日常生活の夜が更けていったのであった。

せめて、せめて僕も今年の誕生日の時には

「百万個のマラの穴をー。あなたにあなたにあなたに開ーけーるー」

と歌いながらバラエロの生活にしたいものである。

問題:花を買って帰るとき、いつも思うことは何でしょう?

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