オベント・モリ(弁当を忘れるな)

娘・R(3才)。幼稚園に入ってアバウト1ヶ月。授業時間も午後まで伸びて、お弁当も幼稚園で食べるようになった。

幼稚園の先生が書いてくれた連絡ノートを見てみると

「お弁当を食べるのが遅く、牛乳も苦手なようで一番最後まで食べてました…」

「最後は泣いてしまいましたが、でも決して自分からやめることなく頑張って食べて、牛乳も半分まで飲みました」

とのことで、食べるのが遅い+牛乳が死角だったか!、と今更ながら思うのであった

「迎えに行った時もちょっとベソかき気味だったんだけどね…」

と嫁。

。一体誰に似たのであろうか。僕は好き嫌いが多いとはいえ、子供の頃は取り敢えず我慢して残さず食べたと記憶する。昼休みまで残されて…という記憶はない。牛乳も自ら買ってでも飲むほど好きではないし、どちらかというと巨乳の方が大好きなのだが、普通に飲んでいた。

「私も幼稚園の頃は食べるのが遅くてさー。いつも残されて食べてたんだよね」

「嫁、お前似か!」

僕ですら今まで知らなかった親のカルマを背負ってしまったR。いつも能天気に見えても

「この子はこの子なりの苦労があるんだなあ…」

今は布団の中でカーカー寝息を立てているRの髪をそっと撫でた。皆はもう食べ終わっているのに、ベソをかきながらひとりポツンと食べているR。心細かったろう。それでも先生がもういいよ、と言うまで決して投げ出そうとしなかったR。そんないじらしい姿を想像しただけで

「もう…僕がRのそばに駆けつけてやりたいよ…弁当の残りも牛乳も全部平らげてやりたい。でもここで手助けしちゃいけないんだろうなあ…堪えどころだなあ…」

涙が出て来そうになった。助けてやりたいがRの為にはならない。Rの壁なのだ。R自身がよじ登るなりぶち破るしかない。そしてRはそれを分かっているのか分かっていないのか、いずれにせよ自分で立ち向かう姿勢を見せている。親は何もするべきではない…と頭では理解しつつも手を差し伸べたくなるもどかしさよ。

「親」という字は「木の(上に)立って見る」と書く、とよく言われる。

すなわち木の上から幼稚園を覗いていたらただの変態である。そんなわけで僕にはRの側にいることも見ることも許されない。

翌朝、Rは幼稚園に行くのを嫌がるのでは…と探りを入れてみた。

「R、幼稚園は楽しいか?」

「たのしいー」

「ママのお弁当好きか?」

「だいすきー。パパもママのお弁当好き?」

「ああ、好きだよ」

昨日泣いていたなんて微塵も思わせない、迷いのないRの笑顔の返事。その健気な姿にこちらも身が奮い立って来るではないか。

「なあ嫁…Rは偉いなあ」

「単に3歩歩くと忘れる頭の構造なのかもよ」

「どうしてお前は僕の感動する心にうんこぶちまけるようなことを言うのだ…」

「あなた、本当に私の弁当好きなの?」

「は?」

「あなたこそよく残すじゃない」

「は、は、は…」

年取ると嫌いなものを食べる根性がなくなって来ちゃってね…。ともあれ

「Rちゃん、今日も幼稚園がんばってね」

「うん」

弁当を祈る。

問題:Rの遅食い対策のために、嫁が行ったことはなんでしょう?

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