メインディッシュはお前

嫁が部屋の明かりをパチリと消し、寝ようとしている真夜中午前0時。

この寝るか寝ないかの間に僕と嫁との愛の駆け引きが行われる。

こう書くとそこはかとなく美しいが、要は「やらせろ」「やらせない」の押し問答である。さて今夜はどのように攻めようかと考えつつ嫁の動きを見張っていると、すぐ寝ると思われた嫁は台所に立ち寄り、僕が少し前に夕飯を温めたフライパンと空になった炊飯器のカマを洗い始めた。

本来調理器具と食器の洗いは僕の仕事であるが、時々このように流しに調理器具等をぶちこんだまま僕が飯を食っていると、そこにある物については嫁が洗ってくれることがある。めんどくさがりの僕はこれ幸いと速攻で飯を平らげ

「まま、まま」

息子・タク(1才)のマネをしてヨチヨチ歩きで空にした食器を嫁に持って行くと嫁は

「それも私が洗えってかー。それに全然可愛くないし…」

ブツブツ言いながらも洗ってくれることがある。今日この時も今がチャンスだと思い、食べ終えたまま部屋に置きっ放しだった食器を

「まま、まま」

タクのマネをしてヨチヨチ歩きで嫁に持って行くと、ワンパターンなのがいけなかったのだろうか、

「なに?」

嫁にすごい形相で睨まれたので、ここで嫁に皿を洗わせるのは賢明でないと判断した。借りを作ってしまうからである。借りを作ってしまったからにはその後控えている愛の駆け引きが不利になる恐れがある。

例えば凧糸の先にサキイカを付けてドブ川に垂らす。それにザリガニがハサミで掴んだ瞬間、間合いを計ってうりゃーと糸を引き上げる。そのような釣れるか釣れないかの絶妙なタイミングなのである。下手な動きは致しますまい。むしろ

「今やってるの含めて全部僕が洗うから、そのぶん体で払ってもらうぜー」

これで行くべきだと考えた。借りではなくカリ首をいかに嫁に誘うかが重要だ。そう言おうとした瞬間、嫁がいきなり皿をむんずと掴み

「いやいや私がやりますから」

「え、ちょっと、これは僕が」

「体で払いたくないから私が洗います」

僕の思考、思いっきり嫁に読まれておった。こいつは妖怪サトリか。何故分かったのだろう。いや、やはり僕の行動パターンがワンパターン過ぎるからであろう。この時間帯にソワソワしているということは、目的はただひとつ。目の前に餌を置いた犬より行動を予想しやすいということだろう。まったく長年連れ合うとやりづらくなるものよ。

いずれにせよ、皿洗いぐらいは自分でやっておかないと…と反省する次第。このような家事のサボりが積もり積もって愛の駆け引きの際にマイナスポイントとなる。皿洗いは特に重要であることは諺にもある通り明白である。すなわち

嫁を食らわば皿まで。

問題:たまに交渉OKの時があるが、その時僕がやらされることは何でしょう?
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