一富士二バカ

嫁子供と母と一緒に河口湖に行って来た。

河口湖といえば富士山なわけで、着いた時は既に夕方であったがその雄大な姿は旅館の窓からドカーンと見えていた。写真を撮ろうと思ったが窓越しからだとどうしても美しく撮れないので、僕は娘・R(3才)を誘って

「お父さんと旅館の玄関まで出て撮りに行こう。ぴーすってするんだよ」

と連れて行こうとしたところ

「あなた、窓開くよ。なにボケてんの」

嫁に冷静な突っ込みを入れられたので、惨めに窓をカロカロと開けて撮った。

富士山
ふっじっさーん!

富士山
ふっじっさーん!

ピエール瀧
高いぞ偉いぞふっじっさーん!

しばらく撮っていたのだが

「…さすがに飽きた」

と言ったら母はいやそれは違うと感慨深げに話した。

「いやー飽きないよ。切り取ってもって行きたいぐらいだねえ…それにね、さっき旅館に来る時お母さんが中学校の修学旅行で泊まったホテルがまだあったんだよ!」

「そんな昔は富士山まだなかったんじゃないの」

などと戯言を交わしていたところ、Rがしょんぼりしていたので

「どうしたの?Rちゃん」

と聞いてみたら

「ぱぱとぴーすってするの…」

泣きそうな顔でポツリと言った。先ほどの僕の誘いをじっと待っていたことが判明。

「ああああゴメンね!写真撮りたかったんだね!」

慌ててロビーまで連れて行ってぴーす。Rはわがままを言わない良い子なのだが、僕などに言われて楽しみにしていることは自分から言わずにじっと耐えるいじらしい子である。そのため忘れてしまった時の罪悪感といったらない。

その後のRと息子・タク(1才)は、先週嫁が連れて行った嫁一族の旅行では、嫁がずっとアンパンマンのテーマとバイキンマンのテーマを歌わされ、ふたりはエンドレスで踊り狂っていたということを聞いていたが、今回もタクが

「みんまん(バイキンマンのこと)」

指差して僕に「歌え」と何十回も要求してきたので

「おーれは素敵なバイキンマン…」

一体どれだけ歌ったことか。

Rとタク
ジャイアンリサイタル状態のRとタク。

この旅館は泊まるのが2度目であった。ちょうど嫁がタクを身篭っていた頃に来たことがある。その時の仲居さんがとても可愛い女の子だったので、

「今日もあの子だったらいいな。まだいるかな」

非常に楽しみにしていたところ、部屋にやって来たのは

「本日担当させていただきます○○でございます…」

青白い顔色の兄ちゃんであった。もうあの子はいないのだろうか。あれだけ可愛いのだからとっとと寿退社しているのかもしれない。職場でとっとと彼氏見つけて勤務の合間を縫って布団部屋とかで

「あなたの富士山を私の河口湖にぶちこんでー」

とかしっぽりやってしまっていたのかもしれない。残念である。

楽しみにしていたことはもうひとつあって、それは

「子供達が寝たら旅館のバーで飲まないか」

嫁とふたりだけで久しぶりにちょっと飲みたいということ。子供が産まれてからは居酒屋などにふたりだけで出かける、なんてことは出来なくなったので今日はちょっと母に留守番を頼んで行こうと話した。嫁はいいよーと言ったのだが…。

…子供達を寝かせていたら僕まで朝まで寝てしまった。

「どうせそうなると思ったよ」

「僕も6割がたこうなると思ってたんだけどね…」

嫁とふたりで店で飲むことが出来るチャンスなどもう滅多にない。我が身のアホらしさを呪いじっと泣くのであった。

富士山麓オヤジ泣く。

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