突撃ひとりのお留守バーン

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嫁が娘・R(3才)と息子・タク(1才)を連れて行ってしまう。

週末は嫁一族の旅行なのである。血の繋がりのない僕はひとり留守番である。出発前夜、荷物をまとめていた嫁は

「カレー作っておくから食べてね」

と僕に言った。明日はひとりで寝るのか…と思うと、狭い家なのにやたらポカンとした空間になることを感じた。今、寝る部屋に雛壇が飾られているのだが、僕以外無人となると、この人形達の存在が大きく感じられる。

「なんか…この人達にひとり見つめられて怖いなあ…」

「なに言ってるのよ」

「いつも人間サイドは4人いるから心強いけど、僕ひとりになると待ってましたとばかりに襲って来たりしないかな?」

「そんなわけないでしょ」

「人形苦手なんだよ~。暗闇の中で彼らの目が光ってたらどうする?目が覚めたら全員が雛壇から下りて枕元に立ってたらどうする?怖い!」

三人官女がケタケタ笑い、五人囃子が楽器を凶器に持ち替えて襲いにかかり、ついでに七人ミサキ(※)も加勢して来たら…。

※七人ミサキ:

悪事を働いた者の魂が七人組となり互いの強い怨念で縛られ成仏できなくなったもの。絶対七人でなければならず、一人でも欠けると頭数を揃える為、人を殺し引き込む。地方によっては七人ミサキを見た者は必ず死ぬと言われている。

「江原なんとかにでも頼んで一晩中枕元に居てもらえばいいでしょ!」

「いや、それはそれで怖い」

嫁は馬鹿馬鹿しい話には付き合ってられぬとばかりに話を切り上げ、テレビにでっかく

「キムタク」

と書いたメモを貼り寝てしまった。出掛ける前にキムタク主演ドラマを忘れず録画予約する為のものらしい。お前の方が馬鹿馬鹿しいのではないか。僕は「ツユダク」と落書きして寝た。

翌朝。嫁子供達はいよいよ旅行に出発。僕は仕事。出掛ける前に子供達に別れを告げた。

「タク…しばらくお父さんと会えないけど忘れないでね」

「ぱぱ、ぱぱ」

「Rちゃん…お父さんがいなくても大丈夫かい?」

僕はRに「パパ行かないの?一緒じゃなきゃやだ」と駄々をこねて欲しかった。嫁は出鼻を挫くようなことはするなと怒るかもしれないが、それで寂しさを紛らわせたかった。しかしRの答えは

「だいじょうぶよ~」

…僕はいつどこで野垂れ死んでもいいようだ。

仕事から帰って来ると、当然誰もいなかった。これから数日間、雛人形の恐怖と戦っていかなければならない。どう気を紛らわせば良いものだろうか。

七人ミサキ…。
五人囃子…。
三人官女…。

一人えっち。

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