嫁はキムタク夫はオタク

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息子(1才)にタクと名付けるほどキムタク好きな嫁。

かねてからキムタク主演の映画を観たいと言っていた。

「観てくればいいじゃん」

「でも子供達を連れてくわけにはいかないし」

「今日休みだし僕が見てるよ。束の間だけど、たまには子供から離れて羽を伸ばしてみれば」

理解あるいい夫を演じている風であるがそれは違う。夜の営みになると難攻不落になる嫁が、この見返りとして少しでも交渉し易くなれば…と腹黒くマラ黒く考えていたのであった。

「いいのかなー?じゃあ午前中行って来るから」

「ちなみになんて映画?」

「武士の一分」

一分とはまた短い…武士だけに「拙者、早漏にて候」なんつって。

嫁は「どこに行くの?」と問い詰める娘・R(3才)を適当にかわし、また、タクも自分が置いて行かれるとなると、わんわん泣くことは必至だったのだが、彼はなんだか知らんがタイミングよく押入れの中に入って行き、彼なりの大冒険を始めていたので、その隙に出て行った。

嫁が難関を突破した後は僕がRとタクを公園に連れて行く。

「おとーさんといっしょに♪キムタク♪キムタク♪」

と歌いながらふたりと力の限り遊んだ。今頃嫁は何をしているだろうか。スクリーンに釘付けになっているだろうか。それとも実はガーガー寝てたりして…などと考えつつ、嫁抜きの父子水入らずもたまにはいいものである。

全力で遊ばせたせいか、帰り道タクはベビーカーの中で寝てしまった。家に着くと

「ただいま~」

当然嫁が家の中にいると思い込んでいたRが

「ままどこいっちゃたの?」

と悲しそうな顔をしたのでちょっとピンチ。

「は、は、は、すぐ来るよ。さ、トイレ行こう」

慌てて話をはぐらかせてRのパンツを脱がしたところで呼び鈴がピンポーンと鳴った。嫁がわざわざ鳴らすはずがない。月曜の昼飯時に来る者とは、さては洗濯屋ケンちゃんか団地妻の誘惑か…。残念ながら嫁はおらぬ。祝日だから僕がいるのだ!

「お父さんが出るからちょっと待ってね」

「Rちゃんもいくー」

「お前はノーパンだから来るなー!」

訪問者大好きRであるが、嫁入り前のあられな姿をどこぞの馬の骨に見せるわけにはいかぬ。Rを待たせて出てみると、生協の配達であった。冷凍食品が山ほど届けられ、どうやっても冷凍庫に全部入らない。

「嫁~どうなってんだよう~みんな溶けちゃうよ~」

溶けちゃうのは濡れ場のAV女優だけにして欲しい、と子供達より泣きが入ったところでようやく嫁が帰って来た。

「食べる?おみやげ」

と手渡されたのはデブのアメリカ人がモサモサ食ってそうな馬鹿でかいカップに入った大量のポップコーン。

「いや僕は…。Rちゃん、食べるか?ポップコーン」

「ぽっくぽーん?」

「いや、ポップコーン」

「こっぷぽーん?」

だんだん正解から遠ざかっていくので押し問答はやめて食べさせた。

「それで嫁、どうだった?映画は」

「キムタクカッコよかった!始めは途中で寝ちゃうかな?って思ったんだけど、釘付けだったよ」

「実は僕も寝てたりして、って思ってたけどね。客はどんな人が多かった?」

「あんまり若い人はいなかったなー。時代劇だからかも。ひとりで観に来てるオバサンもいたよ」

「それはお前のことじゃないのか」

「そ、それはそうだけど!もっと年いってる人!」

言わぬが花、という言葉を思い出したが遅過ぎた。それでも嫁はキムタク効果か

「久しぶりに映画観たけどやっぱりいいわ~。また行きたい。子供が寝た後のレイトショーとかどうかな…」

ポワーンと悦に浸っていた。じゃあ早速今晩僕が主演で嫁が助演のレイトショーをば、と銀幕が開くのを心待ちにしていたのだが…嫁は「眠い」と言ってとっとと寝てしまった。

映画館で寝てるべきである。

問題:「キムタク」と連呼しているが、それで僕が恐れていることは何でしょう?
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