うちの娘は世界一ィィィ!

父親というものは自分の娘が世界一美しいと思うものだ、と信じて疑わなかった僕である。

「ああ、この子の顔はなんて可愛いのだろう」

「将来きっと美人になる」

「幼稚園で一番可愛いね」

隣で寝息を立てる娘・R(4才)を眺めていると最大級の賛美の言葉を口から出てしまう。第三者から見ればジャガイモと大して変わらぬと言われるかもしれないが、どうせ親バカである。嫁以外聞いている者もいないので心置きなく言う。

親の欲目と言う超主観的視点にてRを称えまくっていたら

「でも私の友達の子供はもう3回もモデルスカウトされたらしいよ」

嫁が客観的評価という横槍をもって僕のうっとりタイムに水を差した。犯したろか。

「モデルと言っても、登録料だとかカタログの写真撮るからとかで金を取られるんだろう。それで食ってる会社だから可愛い可愛くないの判断で声を掛けているわけではない」

嫉妬と怒りを覚えた僕はすっぱい葡萄で怒りの葡萄でもうビッグ・ザ・ブドー。

「あー。まあ、仕事が取れたとしても交通費とか持ち出しだって言うしね…」

「それにRがスカウトされないのは行動範囲が練馬というしょぼいエリアから殆ど出ないからだ。原宿とか行けば速攻でスカウトが寄って来て、その気になればエビちゃんも真っ青のモデルになれるだろう。きっと20年後にはアイムラビニッとか言ってる筈だ!」

純粋な父親の想いに茶々をいれた嫁の罪は重い。僕はすっぱい葡萄だが嫁にはおっぱい指導が必要である。

自分の子供が誰よりも可愛いと思うのはお前とて同じだろう、分かってくれ、と嫁を諭すと

「ところがねえ…」

こういうことがあったのよ、と語りだした。

Rと同じクラスのモナちゃんという女の子。この子は将来モデルになりたいという夢があるらしく、

「モナちゃんモデルさんになりたーい」

とはしゃいでいたら、モナちゃんの父親は

「その顔じゃ無理だろ」

真顔でそう言ったのだそうだ。娘の夢をあっさり潰す父親。てらひどす。未来も可能性も無限大にある若き芽をいきなりぶっちぎることもなかろうに。4才とはいえモナちゃんも女の子、どのような気持ちで父親の言葉を受け止めたのだろう。そのような言葉はモナちゃんが夢見る少女じゃいられなくなった頃に投げかけるべきである。

それまではお姫様になりたいとか、プリキュアになりたいとか、何になりたいと言ったとしても

「なれるといいねえ。がんばれ」

娘の夢を繋いでおきたいというのが僕の考えである。ヤワラちゃんになりたいと言った時だけ全力で説教して止める。

父親というものは自分の娘が世界一美しいと思うものだ、と信じて疑わなかった僕である。その自信がちょっと崩れた。父親とは娘にメロメロになるものだ、と決め付けていたからあんな冒頭のような台詞も臆面もなく言えたのであり、必ずしもそうでないと分かった今、ちょっと、

顔から火がモデル。

問題:それでもRは可愛いと言ったら嫁は何と言い返したでしょう?

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