注射禁止

「ねえパパー、モナちゃんが風邪引いちゃったのよー」

モナちゃんとは娘・R(4才)の友達のことである。僕もよく知っているRの幼稚園の同級生。

「ありゃ、それはかわいそうだね」

僕もついこないだ2週間ほど風邪をこじらせていたので辛いであろうな…とRの話を聞いていたら嫁が「いやいやいや」と割り込んできた。

「いやいや、引いてないから。Rちゃん、あなた一緒に遊んでたでしょうが」

はてこれはどういうことだろう。

「インフルエンザの予防接種を受けただけでしょ」

なるほどそういうことか。注射された=風邪引いたとは何ともRらしい発想である。

「第一Rちゃんだって予防接種したでしょう…」

自分も同じく注射を受けといて、友達だけ勝手に病に倒すとは…おそろしい子!予防接種はRだけでなく息子・タク(2才)も嫁が病院に連れて行って受けさせた。そして嫁も受けたという。もうそんな季節か。インフルエンザには香港A型やソ連A型などがあるが、僕は蠍座A型である。誕生日は11月20日なのでプレゼント待ってるぜ。

「え~でも君達だけずるい~」

子供ポケモン父ノケモンというサラリーマン川柳が頭に浮かんだ。

「子供達がインフルエンザにかかったらシャレにならないからね。そして私が倒れたらこの家は終わりだからね」

僕はビタイチたりとも期待されていないのが悲しみを通り越して逆に笑えた。

「もう少ししたら2回目の注射もあるからね、わかった?Rちゃん」

それを聞いた途端Rの動きがピタリと止まり、顔は強張っていた。え、まだチックンしなきゃならないの?と恐怖のズンドコに叩き落されたのがありありと分かる。

「注射なんかよりインフルエンザの方がずっと辛いから、ね。それに注射の後はシール貰えるだろう?」

とRを慰めたのだが

「うわああああん。やーだー。やーだー」

その甲斐もなく泣き出してしまった。

「備えあれば憂いなしと言ってな…」

「うわあああん。うわあああん」

備えといて憂いまくりとはどういうことか。嫁はそんなRを見て

「はいはいどうぞ泣いて下さい。泣いたって何が変わるわけじゃないんだから」

うわーこうやって泣いている若いOLを突き放すお局様いそう、といった感じのひとことを言ったらRが嫁をばしんと叩いた。お、お局様へ叛旗を翻したか。しかしお局、じゃなかった嫁は強かった。

「いったーい。なんでそういうことするのー?ママ凄く痛かったなー」

オラオラと今度は道端で肩がぶつかっただけで骨折したと因縁つけてくるチンピラのようないたぶり。

「Rちゃん…ママにごめんなさいしなさい…」

Rと一緒に小さくなっていた僕がそっと耳打ちすると

「うえっうえっごっめっんっなっざいっ…うええええん」

嗚咽しまくりで謝ったのであった。泣きっ面に母とはこのことか。Rはシクシクと泣きながらそのまま眠りに就いた。

子供達が寝静まった後、

「さすれば私めが2回目の予防接種を」

と嫁に襲い掛かったところ例によって跳ね返されてしまった。注射器がちょっと太過ぎたかナ?(見栄っ張り)

予防せっくす失敗。

「せめてちゅーだけでも…」

予防接吻も失敗。

問題:僕の注射器にまつわるイヤな思い出はなんでしょう?

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