子作りの秋

夜中、眠っている娘・R(4才)と息子・タク(2才)の姿を見つめていると、嫁が溜め息を付いた。

「ふたりとも大きくなっちゃって、赤ちゃんだった頃の可愛さが懐かしいわ」

「気持ちは分かる」

布団を蹴り上げどどーんと大の字で眠る姿も見ていて飽きないものであるが、寝具の中に消え入りそうなぐらい儚げで小さな姿だった頃の可愛さというのもまた格別なものだった。

「タクなんか最近公園に行くと私より女の子の方に向かっていくのよ。ママ寂しい!」

「そういえばこないだ同じぐらいの年の女の子をナンパしてたな」

「そこで、もうひとり赤ちゃん欲しいの!」

「ええええー。赤ちゃんを可愛がりたいから、って言ってたら何人作ってもキリがないじゃないか」

「子供好きの私は、常々3人は欲しいと思っていたのです」

そうだった。元々嫁は子供好き。仕事も子供を相手とする仕事だった。結婚した時から「子供は3人…」と何度か仄めかしていたが、僕は軽く右から左に流していた。

「すまんが僕の稼ぎではふたりが精一杯だよう」

「なんとかなるっしょ」

「根拠は?」

「ない」

明るい家族計画のカケラもない。無意味に明るいだけである。

「あとこれは僕の心配事なのだが、3人目が出来ても、Rやタクと同じような愛情を注げないかもしれない」

「それ、タクが生まれるときも言ってたよね。どうしてもRに愛情が偏ってしまうんじゃないかって」

「タクはタクでRにはない男の子の可愛さがあるから、それはなかったんだけどさ…」

僕は嫁ほど子供好きではない。勿論我が子は大好きである。しかし元々の僕の愛情はそれほど大きくはないから、Rとタクに愛情を注ぐだけで「愛情切れ」になってしまい、3番目の子が男でも女でも「二番煎じ」と感じて興味が持てないのではないだろうか。僕には3人も愛せる心のキャパがあるのだろうか。そんな不安があるのだ、と嫁に話した。それでも嫁は

「ねえ~ん。作ろうよ~」

と僕のアレをまさぐり始めるではないか。いつもは僕の求愛ダンスを無視するくせに、

「こんな時だけ色仕掛けすんな!」

「いつも子種垂れ流してもったいないよ~」

「人のアレを水道の蛇口みたいに言うな」

3人目を頑張るべきなのか、そうではないのか。子作りの悩ましき問題である。大きな問題なだけに判断出来かねないでいる。占いのひとつでもやって縋りたい気分だ。

コヅクリさん、コヅクリさん…。

問題:それでも赤ちゃんが欲しいと言う嫁に、僕は何と答えたでしょう?

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