もう大変なんすから

「きょう、パパかいしゃなのォ?」

なのォ?と語尾上がりに聞いてくる息子・タク(1才)。

「うん。会社だよ」

「Rちゃん(4才の娘)はようちえんなのォ?」

「そうだよ。幼稚園行くんだよ」

「たっくんはようちえん、ない!」

「そうだね。たっくんはまだ小さいからないんだよ」

ほぼ毎朝このようなやりとりが行なわれる。まるでタクが1日の予定を確認する朝礼を行なっているみたいである。

「ねえパパ、会社どうなの?」

タクと僕の問答を聞いてて、次に口を開いたのはRである。

「やあチミ、最近どうよ、やってる?うしゃしゃ」

みたいな超漠然とした挨拶代わりのような質問。おやじか。

「んー。大変だけど頑張ってるよ」

わりと素で答えてしまった僕。

「そんなにおべんとう食べるの大変なの?」

Rは僕が会社に行くのは「お弁当を食べるため」と思っている。朝から夜中まで食べ続け…って退廃したローマ皇帝か。

「いや、お弁当食べてるだけじゃないんだけどね…お仕事もしてるのよ」

「ふーん」

多分何も分かっていないと思う。

「Rちゃんは幼稚園どうだ?」

逆にRに聞いてみた。するとRは

「こうたろうくんがたいへんなの」

「こうたろうくん?」

「ようちえんのおともだちだよ!」

「そうか。こうたろう君はどう大変なのかな?」

「えっとねー。こうたろうくんのパパとママがたいへんなの」

なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がする。

「ふ、ふーん」

一体何が大変なのだろう…と、先ほどのRの生返事のようになってしまった。あまりゴシップ的なことを聞いても下衆な気がしたので深くは聞かなかったのである。考えてみれば

「パパとママがケンカして」

ぐらいは幼稚園で会話していてもおかしくない年頃。そして「こんなことを言ったら家の恥」という判断力はまだない。ということは、家の内情がダダ漏れするということも有り得るのだ、とこのことに今更ながら気が付いて背筋が寒くなった。子供達の前でケンカとかはみちんとか、みっともないマネは出来ぬ事よなあ。

「壁に耳あり。ジョージにメアリーか」

と呟いたら

「ちがうよ!マイケルだよ!」

とRに訂正されてしまった。幼稚園で英会話の担当をしているのがマイケルという名前らしい。

壁に耳あり。ジョージマイケル(なんのこっちゃ)

ああ一体何が大変なんだろう。

Rは大変なものを盗んでいきました。私の心です。

問題:僕が会社に行く時、Rは何と言って見送ってくれるでしょう?

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