エロゲー春秋

嫁がガタガタと本棚を片付けていた。

どうやら整理整頓の神が舞い降りてきて、「お片づけの波紋疾走(オーバードライヴ)」が発動したようである。

「あなた、いらないマンガないの~?売るか捨てるかしてよ」

僕のバイブルとも言えるジョジョの奇妙な冒険や魁!男塾や北斗の拳等々の名作がぎっちり詰まったマンガ本棚も整理したいようであった。この棚は殆ど僕の本で埋め尽くされている。だから今までは嫁も手を付けないいわば僕の「聖域」であったが、子供達のおもちゃや服、その他日常品が増えて部屋が魔窟化し始めたことにより、嫁が革命的抜本的な整理整頓作業に乗り出したのだと思われる。しかし

「ならぬ」

わしが当家家長かじりんである。引かぬ媚びぬ省みぬ。手放しても良いマンガは一冊もない。きっちり断った。しかしこれが悲劇の前フリだと気付くのは翌日になってからであった。

仕事から帰って来て、先日買ったCDを聞くかと思ったらそれが見当たらない。未開封のまま机の上に置いておいたはずなのに…とCD棚も探そうとしたら、なんとここも嫁の手によって整理されている!CDは僕のシステム机に付随している棚に入れているのだが、膨大なCDの中にその未開封CDは紛れてしまったのである。ここも僕の聖域だったのに…。

片付けてくれるのはありがたいが僕の聖域には手を付けないで欲しい…とCDを1枚1枚掻き分けて探し始めたのだが、程なく1枚のCDのジャケットが目に付いて心臓が止まりそうになった。

こんなところに昔買ったエロゲーのCD-ROMがああああ!

見られた!絶対嫁に見られた!乳丸出しで後ろから犯されてるエロCGがどーんと。今後どんな顔をして嫁と対面すればいいのだ。

「最近ジャーマンテクノ界でこういうジャケットが流行りなんだよ…」

などと言い訳を考えたが「このソフトは18禁」とでかでかと書かれているのでどう誤魔化しても誤魔化しきぬ。探しているCDの場所を嫁に聞きたいのだけれども

「エロゲーオタクがどの面下げて音楽聞くの。アニソン?…プッ。」

とか言われたら窓ガラス割って寺まで走ってしまいそうだ。そして出家。親にエロス本が見つからないように…と苦心していた中高生の頃と同じ悩みを再び抱えるとは。歴史は繰り返す。いや成長しておらんだけだ。

悩みはまだある。嫁がシステム机のCD棚まで侵略して来たということは、その上にもうひとつ本棚があるのだが、いずれここも嫁の手入れが…このことである。この本棚にはエロゲーより「もっとすごいもの」が隠されているのだ。これが見つかった日には嫁は子供たちを連れて実家に帰ってしまうかもしれない。

止む無し。今のうちに処分することに決めた。闇から闇へ葬り去ろう。嫁が寝ている真夜中に本棚から厳重に取り出した。仕方のないことだ。もう僕には「聖域」はないのだ。

名残惜しかったので、最後の別れとばかりに「もっとすごいもの」を手に取ってしばし…。

…。

…。

聖域じゃなくて性域であった。

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