ガラスの変態仮面

部屋でゴロゴロしていたら

「は~い。ぱぱあかちゃん、おねんねですか~」

娘・R(3才)がまたRが独自のファンタジーの世界に突入したらしい。僕は赤ちゃんにされてしまったので赤ちゃんを演じなければならないようである。ついこないだ「爺」の役をやらされたばかりだというのに。親というものは子供を養う力の他に、様々な役を演じる力も必要なのだと気付いた。一体いくつの役の仮面を身に付けなければならないのだろう。ガラスの仮面かっつーの。

「わかった。赤ちゃん役をやろう。僕は赤ちゃんの仮面を被ろう。そしてRちゃん、君はママの役をやれるかい?」

「はーい。ままでーす」

姫川亜弓

受けて立った!受けて立ったわ!R…わたしのライバル…!僕は魂の演技を以って赤子を演じなければならなくなった。家庭内劇団の始まりである。

「ばぶばぶ。ママ。おなかすいたでちゅー」

「ごはんちゅって(作って)ますからね」

いつの間にかおままごとセット食材を持って来ていて、包丁で切ってるマネをしている。Rも真剣に演技している。なんということ。小道具を揃える手際の良さもさることながら、この子の演技には迷いがない。それに引き換え僕は…。これで僕も真剣に演じざるを得なくなった。


負けたくないわ…!

「赤ちゃんはおっぱいしか飲めません。だからママのおっぱいちょうだいばぶばぶ」

劇団員として、できるだけ赤ちゃんの生態に沿って行動しなければならない。だから僕はこう切り替えした。もっとも僕はRから授乳してみたかった!Rの胸をちゅーちゅーしてみたかった!なにもダイレクトとは言わない。服越しでよい。Rよ。覚えておくがいい。男は生まれてから死ぬるまでおっぱいが好きなのだ。将来は娘の胸に抱かれて死にたい。しかしRの答えは

「だめっ」

頑なにガードして近寄らせてくれない。

「赤ちゃんゴハン食べられないんでちゅー。おっぱいがいいんでちゅー」

「だめっ。ごはんたべるんですよ」

「がぼおおおおお!」

Rは僕が演じるところの無垢で可愛い赤ちゃんの願いを悉く無視し、無理矢理大根(のおもちゃ)を僕の口に突っ込んだ。結局僕の役者としての才能は「大根」だったということだろうか。オーホッホッホ…

月影先生
おそろしい子!

「おいしいですかあ?」

「げほげほげほ…ぐるしいぐるしい…」

大根を突っ込んだまま無邪気に聞いてくるR。僕は息が出来なくなり、このままでは死あるのみと悟った。Rの声が脳裏にこだましながら意識は徐々に遠のいて行き、この劇団の劇も幕を下ろしたのであった。

劇団死期。

問題:どうせ赤ちゃん扱いするのなら、もうひとつRにやって欲しいことは何でしょう?
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