排泄なものは、目に見えない(ほうがいい)

公園で子供達と遊んでいたところ、犬を散歩しているお兄さんがやって来た。

「わんわん!わんわん!」

息子・タク(1才)が指差して興奮する。娘・R(3才)もそうだが、幼児というものは犬であれ猫であれ鳩であれ、目に付く動物全てにエキサイトするものである。なにもそんなテンション上がらなくても、とも思うのだが、よく考えたら僕も若い女の子を見て

「おっぱい!おっぱい!」

と興奮するので、これらは世代別の本能であると悟った。

タクは即座にエッチラオッチラと犬に近付き、ナデナデをしようとした。Rは動物を見て喜びはするけれども近寄ろうとはしなかったが、この辺が慎重派のRとは違うタクの鉄砲玉っぷり。公園に連れて行けば砂を食い、隙あらば公道に脱走しようとする男。ちゃぶ台に昇ったはいいが降りられなくて泣く男。それがタク。

「あ、すいません」

僕も慌ててタクの後を追い、飼い主のお兄さんに挨拶した。犬はしゃがみこんでプルプル震えており、お兄さんもティッシュとコンビニ袋を持って構えている。つまりそういう瞬間だったのだ。

「ほらタク。ワンちゃんは引っ込みつかない状態だからやめなさい」

しかし1才児の耳に念仏。犬がことに及んでいる最中で動けないのをいいことに顔や体をペタペタ触りまくる。これはひどい。遠い過去の忌まわしい記憶が甦った。

小学生の頃、学校の男子トイレの個室が使用中、つまり「大」をしている者がいると、

「うんこしてるやつがいるぞー!」

発見されるやいなや落ち武者狩りのような狂気のイベントが開始されたものである。これを聞きつけた男子共はこぞってトイレに集結し、ドアをガンガン叩くわドアをよじ登って覗こうとするわ、ひどいのになると濡れ雑巾を投げつけたりした挙句、向こう1週間は「うんこマン」などとアダ名される。このタクの行為も無邪気とはいえまさにそれではないか。あんなおろかな行為を後世に伝えてはいけない。そう思い

「すいませんねえ。どうもどうも」

僕はタクを抱き上げそそくさと退散したが、

「わんわん…」

タクはいささか不満気であった。そのせいだろうか。

夜…。嫁がトイレに入ったのを見計らってタクもトイレに突入。ドアを

「ばあ~」

と開けると便座に腰掛けた嫁の姿が露わになった。今度は嫁の引っ込みつかない状態を邪魔した。

「けひゃひゃひゃひゃ」

Rも面白がってトイレに突入。ついでに僕も突入。1畳分の狭いスペースの中にぎゅうぎゅうと詰め寄り、腰掛けた嫁をタク・R・僕がまじまじと見詰める、という非日常的な眺めがそこにあった。日常の生活がちょっとズレただけでこんなシュールな光景になるとは。僕は奇妙な感覚のズレに酔った。

「じゃ、嫁、遠慮せず排泄をどうぞ」

「なんでよ!出て行きなさいよ!」

僕に文句を言うのはお門違いである。子供というものは親を追いかけるもの。入られたくないのであったら鍵をかけなかった嫁が悪い。

よって嫁を排泄物陳列罪とする。

問題:男子トイレで「大」騒ぎの時、個室の中から外で騒ぐ者共を追い返した剛の者がいた。どうやって追い返したでしょう?
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