ザ・レイヴ


年1回開催される、日本最大のレイヴパーティー「WIRE」

チケットは買っていたもののすっかり忘れており、明日だったことに気付いて大いに慌てた。

嫁に言っておかなければならないのである。

嫁とは結婚前から、時々クラブで夜通しフィーバーしていたのだが、子持ちとなってしまった今は当然そんなことは出来ない。子供が生まれた時点で

「もう行けないよなー」

とお互いクラブ活動引退したを決意したものであった。ただこの時、

「わがままですまんが、年に1回、WIREだけは頼むから行かせてくれ!」

と嫁に願い出て許しを得た。そんなわけでもう5年ぐらい行き続けている。しかし許可を得ているとはいえ、自分だけ楽しむのは後ろめたく、

「今年も行っていいかナ…?」

と切り出すのは勇気がいるものである。出来るだけ早めに、それも嫁の機嫌が良い時を見計らって言っておく必要があったのである。チケットを買った時もそう思った筈だ。しかし怖くて先延ばしにしてしまい、忘れてしまっていた…。

もう言わなければならない、と決意したWIRE前日の朝。すなわち今朝。もう明日の話だ。嫁の機嫌を窺っている余裕はない。一応顔色を覗いてみたが、更年期障害の市原悦子のような、微妙な表情であった。

うわー。タイミング悪そう~。チョミラスパベリバ。(超ミラクルスーパーベリーバッド:今更無駄に覚えたコギャル語)こんな悩むくらいならいっそ行くのをやめようかとも思った。しかしチケット代いちまんごひゃくえんが惜しい。そのためにチョベリビ(コギャル語)なのである。

「あのね、土曜日、WIREなんだ」

嫁の横に立ち、遂に言った。ただし顔を直視できず、前を向いたまま…。

「…いってらっしゃーい」

永遠のような一瞬の間があった後、嫁が棒読みで返事した。フツフツと湧き上る不快感を堪えてる様子が手に取るように分かる。超ツンドラ状態(コギャル語)

「子供たちをお風呂に入れてから行くからさ…」

言い訳がましく取って付けたような一言を添えて、逃げるように出勤した。ひとまず言うことが出来たことに胸を撫で下ろした。

嫁、許可してくれてアリゴザ(コギャル語)

WIREでは決してコギャルとかナンパしません。

ていうかまだいるのか、コギャルって。


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