それでも今まで抱いた中で、最高の女


仕事から帰って来たら、息子・タク(10ヶ月)はもう寝ていたが、娘・R(3才)は起きていた。嫁はどうだったか忘れた。

「ぱぱ、いっしょにねんねしよ?」

若い娘っ子に「一緒に寝ましょ」と誘われた時の断る術を僕は知らない。断る理由もない。

「はいはい、ねんねしようね~」

鼻の下を伸ばして僕の布団に寝転んだ。

「ぱぱ、Rちゃんのふとんに、来て?」

おおおお、一緒にの布団で寝たいというのか。なんだか今宵のRは特に甘えっ子であるようだ。

「そんなにパパに甘えたいのか、よーしよしよし、かわいいですねー」

僕の鼻の下は更に伸び、デレデレになる余り、口調も動物をあやすムツゴロウのようになってしまったが、ぴたりとRに寄り添って横になった。

「はいねんねしよー。ねんねしよー」

軽く肩を抱いてポンポンと叩く。Rの瞳に眠気が落ちて来て、トロトロと虚ろな表情になっていく。無防備な顔がたまらなくかわいい。こうして枕を並べてRを抱いて、その眠りに落ちて行く様を見届けることが出来るのは、あと何年であろうか。

闇の中でひとりぼーっとしていると、ついそんなことを考えてしまう。Rもあっという間に3才である。10年後同じことをやっていたらただの変態親父である。

いずれ成長したRの寝顔を見届けるのは既に僕ではなく、どこぞの馬の骨…あああああああああああ!!身を引き裂かれる思いだが仕方がない。将来僕がどうあがいても手の届かぬところに行ってしまうのだ。それがRの幸せ僕のしわよせ。

せめて子供である内は、この胸の中に抱き止めておきたい…と、ぎゅっと抱きしめた。しかし

「だめっ」

なんとRが腕を伸ばし、ぐいいいっと僕を布団から押し出そうとするではないか跳ね除けるではないか。

「一緒に寝ようって言ったのはRちゃんでしょ!」

「めっ。ぱぱ、あっち!」

「…じゃあ、パパ、バイバイしちゃうよ。隣の部屋に行っちゃうよ」

「うん。いいよ」

あと何年枕を並べて、どころかものの10分で追い出されてしまった。何故コロコロ言うことが変わるのか!きっと一緒にいて暑苦しくなったからに違いない…。

「パパ本当に行っちゃうよ…。おやすみだよ…」

「おやすみんしゃい」

Rに布団を追い出され、たった10分間の枕を並べて寝たぬくもりに焦れてひとり寂しく書いているこの日記は、まさに僕の枕草子。

春はあけぼの、僕はのけもの…。


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