オムツーパンツー。
娘・R(3才)はまだオムツっ子である。
まだトイレで出来たことはない。同年代の子供と比べると少々遅いと言える。どうもトイレを嫌っているようなのである。時々朝起きた時などに
「へい彼女、トイレでおしっこしない?」
ヘイ彼女、ティーでもドリンクしない?と、横浜ナンパ橋でナンパするが如きの気さくなノリで誘ってみるのだが
「やーだ」
悲しいかな、ナンパ橋のギャルと同じリアクションで断られてしまうのであった。ああそうだよ、成功したことなんてないよ。
今朝、嫁はいつものおむつではなく、トイレトレーニング用のパンツを履かせた。
「あなた、頃合見計らってRにおしっこしたいかどうか聞いてね」
「わかった」
この試みは一歩間違えると尿が駄々漏れとなってしまう危険性を持つ。背水の陣ならぬ排尿の陣。
「Rちゃん、そろそろおしっこしたくない?」
「でない!」
間を置いて聞いてみたが、頑なに拒むR。本当に出ないのか、それともトイレを嫌がっているのか…。暫く様子を見ていたら、Rがお股をモジモジさせていることに気が付いた。これは放尿を我慢しているに違いない。
「さ、Rちゃん、トイレ行こうね」
「でない!」
ギャアアアアと泣き叫ぶRを抱えてトイレに連行した。
「さ、ここでおしっこしーってしてごらん」
さあトイレで熱いHOUNYOU!できたらパパと熱いHOUYOU!
きみの未来は前途YOUYOU!来週田舎で五十回忌HOUYOU!
僕のほうはもうノリノリでやれ出せほれ出せと意気YOUYOUだったのだが、
「でない!でない!うわあああん!」
「トイレで出来ないとお姉さんになれないよー」
「フギャアアア!ウギャアアアア!」
だんだん埒が開かなくなって来てしまった。尿より涙と鼻水とヨダレを流しにトイレに篭ったようなものだ。
「あなた、もういいよ…」
嫁もここでストップをかけた。仕方なくトイレトレーニングをこれにて打ち止めとし、オムツを履かせてやった。
昼、そのオムツを替えようとしたら
「…Rちゃん、おしっこ出てないの?」
「でない!」
オムツが全くのサラサラだったのである。サラサラのサラサーティ。多い日も安心どころか少なくて心配。
「嫁、R全然してないよう。さっきのがトラウマになってしまったのかよう」
「…かもしれない。おしっこするのが怖くなったのかもしれないね。あなたがあそこまでスパルタになるのは珍しいから。熱いから脱水症状気味って線もあるけど」
「R、ごめんよう。トイレには連れて行かないから、オムツの中でいっぱいしていいんだよ」
「…でない」
心配しながら1日を過ごしたが、なんと夜にまたオムツを交換しようとした時もRはしていなかったのだ。
「R~大丈夫か~。好きな時に好きなところでしていいからね」
「…でない」
Rのこの言葉を今日何回聞いたことか。何故僕は嫁が言ったように、珍しくあの場で熱くなってしまったのか。子供の成長を計るのに平均のデータは当てにならない。それは子供ひとりひとりによって違うから…と、いつも考えていたのに。
「○○ちゃんはトイレでできたよ」
などとRの同年代の子が着々と脱オムツしている話を聞いて、本当は焦っていたのかもしれない。しかしいくら強要してもRの心が耐えられなければダメなのだ。
…トイレが出来なくてもいいではないか。まだおむつを外せないけど、Rは自分の名前を大きな声で言える。リトミック(お遊戯)教室では踊りが一番うまいしリズム感もオタクDJの僕譲り(?)で抜群に良い。
「R、パパが悪かったよ…だっこしてあげるからね」
「ぱぱ、あそぼ~」
ああ、まだこの僕を父として慕ってくれるのか。その明るい性格が何よりの長所だよ。父は間違っておった。
お小水のことだけに、僕はお憔悴…。
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