こんにちは3才児


娘・Rは3才になった。

誕生日の朝、まだ寝ているRを起こそうと思った。さあ目覚めよ。目覚めた時から、君は3才だ。

「Rちゃん、起きて~!」

しかしRはしかめっ面をして目を閉じたまま首を横に振る。

開けようとしない。

「起きないの?」

頷くR。

「アンパンマン見ないの?」

再び頷く。Rは毎朝アンパンマンのビデオを見せろとせがむのだが、それにすら釣られないとは余程眠いのか。

「もうプレゼントあげちゃったら?」

台所から嫁の声が響く。僕が土曜日にヨコシマヤ百貨店(仮名)で買って来たものを隠してあるのだ。

「そうするか。どうせ夜帰って来れないし」

僕は隠し場所からプレゼントを取り出し

「ほらRちゃん、誕生日プレゼントだよ。中身はなんだろうなー?」

とRの目の前に置いたところ、ガバッと目を覚まし

「なんだろうねえ!!」

全く現金なもので、もう目をキラキラと輝かせていた。

「じゃあ開けるからねー」

「うん」

プレゼント用のラッピングを外す。

「あれ、ちょっと、待って…えーと」

なかなか気合の入った梱包で、しばし手間取る。

「ぱぱー、はやく、あけてよー」

Rちゃん、君は3才になってちょっと生意気になったね…。

「はい、これがプレゼントでーす」

ようやく梱包を解いて、プレゼントをご開帳。BRIOというおもちゃメーカーの機関車レールキットのうち、「踏切」と「トンネル」を買ってやった。汽車とレールはもともとあるので、それに付け加えることにより、Rはすぐに夢中になってしまった。もちろん息子・タク(9ヶ月)も一緒に遊んでいた。

そろそろ会社に行くか…と子供達の遊ぶ姿を見ながら腰を上げると、台所仕事を終えた嫁がやって来た。嫁はプレゼントが入っていた紙袋の中に、1枚のチラシが投げ込まれているのに気付き、それを見て言った。

「あら、ヨコシマヤで土曜日アンパンマンショーがあるんだって」

これを聞いたRが

「あんぱんまん、みるー!ぱぱ、あんぱんまんあんぱんまーん!」

新しいおもちゃに心を奪われて忘れていたのに、嫁のひとことで毎朝アンパンマンのビデオを見ることを思い出してしまったのだ。

「ごめん、もうパパは会社に行かなきゃ」

「うわあああん!うわあああん!ギャアアア!」

途端に爆竹のように泣き喚くR。せっかくほのぼのとした誕生日の朝だったのに、たった1枚のチラシと嫁のひとことで修羅場と化してしまった。おのれ赤い薔薇のヨコシマヤめ。

修復不可能なまま仕事に出る羽目になってしまった。

夜、やはり仕事が終わらなかったので、会社から家に電話を掛けた。嫁が出て、Rに替わってもらった。

「Rちゃん、誕生日おめでとうね」

「うん」

「じゃあママに替わって」

「うん」

「おお嫁、どうだった?今日のRは」

「いやー。お風呂の中でうんちしちゃってさー」

Rが3才になった日、我が家の風呂場はうんこく才になったようである。


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