ストーカー幼女あらわる


「ぴよちゃん教室」という、幼稚園に入る前の年齢の子供が対象の、幼稚園のプレ教室みたいなものに娘・R(2才)を通わせている。

平日しか行われないので嫁が連れて行っているのだが、僕も引率してみたいものである。Rは教室に行く日の朝には

「Rちゃん、きょうは、ぴよちゃん行くの!」

と言ったり

「にこにこ、げんきな、ぴよちゃんきょおしつぅぅぅぅー」

テーマソングらしきものを歌っているので、楽しいようだ。

「ただひとつ、最近問題があってね…」

そろそろ夏の風物詩として出て来そうな稲川淳二の会談の語り口のように、嫁が重い口調で話し始めた。

「Rにやたらとまとわり付いてくる子がいるの。その幼稚園の年少の女の子らしいんだけど」

「すわ、いじめか」

「違う違う。ぴよちゃん教室が終わる頃がちょうど年少組みも休み時間か何からしくて、出て来て喋るわけでもなく笑うわけでもなく、ただずーっとRの手を握ってたりお腹をなでたりしてるのよ」

「いっしょに遊ぼう、とか、そういうことはしないの?」

「しない。ただそれだけ。でもずっと触りっぱなし」

「…おっかねえええ」

なにその幼女ストーカー。Rはただただ固まってしまって何も抵抗が出来ないのだという。僕相手だとちゃんと嫌なことは「いや」「だめ」と言えるどころかやれ馬になれ、やれ象になれ、やれ豚になれだの命令し、お前は醜い雄豚だこの家畜め家畜め、ああ女王様何をなさいますもっと酷くいたぶって下さいませと、僕もああ蝶になるああ花になる、もうどうにも止まらないのだが、家族以外が相手だと本当にシャイなのである。

「今日なんか幼稚園に行ったらすぐ、教室の窓からじーっと見つめてるし」

「…おっかねえええ」

これと同じ行為をもし僕がやったとしたら、速攻でパトカー5台ぐらいとチャリマツが20人ぐらい来そうである。

「ぴよちゃん教室が終わった後はみんな園庭で遊んでるんだけど、Rはその女の子が来るからすぐ『かえる』って言うのよ…」

「なんとか避けられないのか?」

「私がRの側にいても寄ってくるし、暴力振るうわけじゃないから無下には…」

「でもなんでよりによってRが狙われるんだろう」

「そりゃやっぱり可愛いからでしょう」

「そうだよねーあはは」

「可愛いもんねーわはは」

ストーカー対策に何の役にも立たないオヤバカーふたり。

もし僕がその場に居合わせることが出来れば

「みんなで内緒でおじちゃんといいことして遊ぼうか」

と物陰に誘い込み

「ほーら、見てごらん!おじちゃん耳が動くんだよ。凄いだろう。あとコレ!こんな長い鼻毛、ありえなくない?」

などと心を込めて数々の禁断の遊びをしてあげれば二度と近付かなくなるだろう。

しかしそんなことをしたらやはりパトカーが15台ぐらい来そうな挙句、来年Rがこの幼稚園に入園出来ない恐れがあるので、やはりRがひとこと「やめて」と言えるようになるのが一番良いのだけれど。

禁断の遊び…幼稚園だけに、禁断ガーテン。なんつって。

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