髪の切れ目が縁の切れ目?


「私、髪切りに行きますから子供達をよろしくね」

日曜の朝、嫁がそう言い残して美容院に出掛けた。娘・R(2才)や息子・タク(9ヶ月)を抱えている身だとなかなか行けない、もう1年も行っていないと常々言っていて、今日ようやく時間が取れたという。

「じゃあママが帰って来るまで僕と遊んでいようね」

エロ富豪に仕えるメイド以上の献身ぶりで暴れたい盛りのRとタクの相手をしていたのだが、嫁は昼の1時半になっても依然戻って来なかった。カットだからせいぜい2時間もあれば終わり、昼飯時に戻って来て飯の支度をする、そのような予定であったはずだ。

「ふやああん」

タクが空腹でぐずり始め、Rも

「おなか、すいたねー」

と言い始め、そして僕も

「おなかとせなかがくっつくぞー!」

空腹と立腹の余り、ヤケクソの歌を歌って子供達をケラケラと笑わせていた。嫁は4時間近くも何をやっているのか。久しぶりに子供から解放された喜びで、カリスマ美容師にでも心を奪われたのだろうか。僕が夜な夜なカリブト子作り師として奉仕していたのにけしからんことである。冷蔵庫の中にも食べ物は殆どなかった。美容院の帰りに買い物して来る算段だったのであろうか。

「R、出掛けるぞ。ゴハン買いに行こう」

嫁の帰りを待ってなどいられない。このままでは餓死あるのみ。いや、むしろ嫁に捨てられたと考えたほうがいいかもしれない。何か事情があれば電話の1本ぐらい寄こしてもいいはずだ。

「どこいくのー?ママはー?」

Rが素朴な疑問を僕にぶつけた。ああ、何も知らずにかわいそうなR。

「僕達だけで強く生きていこう。お前達の為に、絶対若くて美人な新しいママを連れてきてやるからな!」

という新たな決意を胸に秘め、とりあえず腹ごしらえの為にコンビニへ行った。Rの手を引き、タクを乗せたベビーカーを転がしコンビニ弁当を物色する僕は、まさに女房に捨てられてジャンクな食い物しか与えられない男親の典型。

そんな惨めな姿を見初めてくれる女性がいるかもしれない。贅沢は言わないが、童顔巨乳で床上手でメイド服とセーラー服が似合う女の子がよい。

と思ったがコンビニ店内には缶ビールを抱え、昼間からいい感じに酔っ払った爺さんしかいなかった。

「ま、こんな食事でごめんね…」

手作り感のない粗末なコンビニ飯をボソボソと子供達に与え、明日は仕事だから実家の母を呼んで子供達の世話をしてもらうしかないなあ…などと真剣に考え始めていたところ、嫁から今更の電話が掛かって来た。

「もう飯食ってるから」

10分後、息をゼイゼイさせた嫁がようやく戻って来た。普段の嫁は非常に良くやってくれているので怒りますまい。しかしこれだけは聞きたかった。

「なんでそんなに時間がかかったのか」

「あのね、カットだけのつもりだったんだけど、ストパーかけた方がいいって言われて…そしたらパーマ液が浸透するまでしばらくそのままでお待ち下さいとか言われて、待ってたらこんなに遅くなっちゃった」

何がストパーだ。何がパーマ液の浸透だ。そのようにやった4時間の産物が、その落ち武者みたいな頭なのか。

罰として子種液を浸透させることとする。
しばらくそのままでお待ちやがれ。


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