ツァラリストラはかく語りき


たまには早く会社から帰って、愛する嫁や子供達と戯れるべかと思い、夜8時前に帰宅した。

まだ起きていた娘・R(2才)と息子・タク(7ヶ月)もはしゃいで迎えてくれた。いつも真っ暗で全員寝苦しそうな顔で寝ている姿を見ると、時に霊安室に来たかのような恐ろしさすら感じるのである。

それに比べると本当に心が安らぐひと時である。涅槃である。無有恐怖遠離一切顛倒夢想、究竟涅槃。輝くばかりの笑顔の我が子達はさしずめ天使、そして我が嫁は女神といったところだろうか。

その幾分トウの立った女神は、僕の顔をまじまじと見ていた。

どうしたい?
そんなに帰りが早いのが珍しいのかい?
僕の顔のホクロから毛でも出ているのかい?
それとも額に「中」とでも書いてあるかい?
それでもしかして僕に惚れ直したかい?

サバディーサバダッササンサンサバディー。
君かい?唐獅子かい?

ヘイ、ブラザー、セクシーコマンドー部。

いくら聞いてもなかなか答えてくれず、ようやく重い口を開いたかと思ったら

「…あなた、ちゃんと会社行ってるんでしょうね」

こんなことを言いやがった。

「それは、僕は実はリストラされていて、会社行ってるフリして公園あたりで時間潰してるんじゃないか、と、お前はそう言いたい訳だね」

「うん」

「ふ、ふざけんなー!」

女神とか言って損した。このご時世、明日は嫁の言う通りになっているかもしれない。速攻でリストラされて公園のベンチでポツンと佇み、遊びに来る子供にイタズラする身になるかもしれない。しかし少なくとも今日までは働いて来た。今日は早く切り上げたとはいえ、血の汗と血の涙と血尿が出る思いで仕事をして来た。息切れを感じたので、せめて安らぎの我が家で癒されようと思ったのに。

苦しくったって悲しくったって、会社の中では平気なの。でも涙が出ちゃう…なんてことを言ったら、リストラという名の永遠の暇を出される職場。それでも唯一僕の心が休まる場所、すなわち我が家があってこそ踏ん張れると思ったのに、ここも安住の地ではなかったのか。僕の涙が乾く場所は、一体どこにあるのだろうか。

ねえマスター 作ってやってよ 涙忘れるカクテル。

失恋リストラン(古いなあ…)

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