実家から帰らせていただきます


やっと嫁及び娘・R(2才)と息子・タク(6ヶ月)が嫁実家から帰って来る日。

さあ迎えに行くぞと意気込んだ。嫁実家に行くのにこんなテンションが高まっているのは、「娘さんをください」と嫁親に挨拶しに行った時以来である。

Rよタクよ、今行くぞ。お父ちゃんが抱き締めてやる。そして嫁よ。お前がいなくて寂しかった。お前の肉体にむしゃぶりつけなくて苦しかった。悶々とする余り歌まで詠んでしまった。

ひさかたの 光のどけき春の日に 嫁ここに無く ティッシュ散るらむ

(手コキ和歌集)

さあ出掛けようと靴を履いた途端電話が鳴った。待ち切れない嫁の催促であろうか。はいはーいとばかりに電話に出ると

「佐川急便ですけどー。お届け物があるんですけどー」

「…早く来てね」

…来たのは30分後だった。

「いやー、お宅様の場所がなかなか分からなくてですね…」

このドジでマヌケな飛脚め!焦る気持ちで予定より1時間半遅れで嫁実家に到着すると、皆は僕が来るまで昼ゴハンを待っているところだった。すまぬ皆の衆。まず始めに目が合ったRは椅子に座っていた。

「R、会いたかったよ!」

「おとうしゃん!おいで!」

Rは僕の顔を見た途端手招きするので、Rの隣に座ると

「みてみて~、おとうしゃんといっしょよ~」

Rはその並んでいる姿を得意気に皆に披露する。まるで「自慢の彼を見て」と言っているようで少しばかり面映い。

確か、前述の嫁の親に挨拶に来た時もここに座っていたのではなかったか。遠い記憶が蘇った。あの時僕の隣に嫁が座っていたのだが、今はRが座っている。そして嫁は今僕の対面でタクに乳を与えている。

緊張して持参した菓子折りを渡すのもギクシャクとして、受け取った嫁父は

「む」

受け取りながら渋い顔をしていたものだが、今日持って来た菓子折りには

「なーに気を遣ってるんだよ。自分の家に帰って来たと思ってくれよ」

と笑っているし。あの時の自分には想像も出来なかった。下手すりゃ

「ウチの敷居を二度とまたぐな!」

などと追い払われるのではないかと恐々としていた。あれから6年(かな?)、あの時この場所で座っていた自分を、空間はそのままで時間だけ現在にタイムスリップさせたら、この状況に目を丸くするだろうなあ…。目を丸くした後、満足してくれるかどうか。まんざらでもない顔をするような気はする。

しばらくぼーっと人生の中間決算的な思いに浸っていたら、狙っていた寿司ネタを嫁父に食われていた。お、お義父さん…。お世話になります。

僕はこの家の敷居をまたいで、嫁の体もまたいで、生きてきた訳なのだな。そんな人生の記録はここにある。

…マタイ伝。なんつって。

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