てめえのパンツは何色だ


嫁と娘・R(2才)と息子・タク(6ヶ月)が嫁の実家に帰省中で、引き続きひとりぼっちの夜。

上を向いて寝よう。涙がこぼれないように。泣きながら寝る。ひとりぼっちの夜。
天井のシミが、おすぎが舌なめずりしている顔に見えて余計涙と脂汗がこぼれてくる。

子供達の声が聞きたくなって嫁携帯に電話した。

「もしもし~?あなた?明日帰るから迎えに来てよ」

「子供はっ!子供は無事なのかっ!」

子供を誘拐された親の如く詰め寄ると、タクは寝てしまっているとのことで、「…ほら、お父さんだよ」と嫁がRに電話を持たせる声が漏れて聞こえてきた。

「もしもしー。Rちゃん?お父さんだよー」

Rは電話に出る時は蚊の鳴くような声で喋る。いつもは「パパおいでー!」とめちゃくちゃうるさいくせに、電話だとシャイになってしまうようだ。Rに声を掛けてから5秒後、「んふー」と鼻息を吹き付けた後

「…おとうしゃん」

ようやく小さな声が返ってきた。ああ、魅惑のウィスパーボイス。カヒミ・カリイも真っ青。久しぶりの我が子の声。

「ゴハンは何を食べたの?」

「…かれー」

律儀に答えるRの可愛さよ。ランチはカレーだったってさ。やはりカヒミ・カリーなのかな?イヤン僕ったらつくづくオヤジ。そんなどうでも良いことでもタマランチ会長。

「お父さん、明日行くからね」

「うん」

「じゃあお母さんに代わって」

「うん」

うん、と言ったものの、まだ電話を持っているようでしばし無音。

「…」

「…」

「…あれ、まだRちゃんが電話持ってるのかな?」

「うん」

「…お母さんに代わってくれないかなー」

「うん」

「…」

「…」

「…パンツ何色?」

「…ぷーさん」

つい下らないことを聞いてしまった。Rがはいているのはパンツではなくて、くまのプーさんのイラスト付きのムーニーちゃん。分かっていることだ…。

ようやく嫁が代わった。

「あ、あなた?Rがちっとも電話を離そうとしなくて」

ああ、きっとRもこの父が恋しいに違いない。ときに嫁、お前パンツ何色?と聞こうとしたのだが、電話の向こうは嫁実家であることを思い出し、さすがの僕も自粛して、

「じゃあ…おやすみ」

と携帯を切った。ともかく声を聞けてよかった。しかし切った後はやはり寂しくなる。離れた場所でのRの声を聞くと切なくなるし、嫁の声を聞くとムラムラするし。どんだけ淫獣やねん。

もうちょっとだけ声を聞きたかったな…もう1回だけ電話しちゃおうか…と携帯に手を伸ばそうとしたら、つい携帯ではなく海綿体に手が伸びてしまったので、それはそれで続行と相成ったひとりぼっちの夜。

上を向いて飛ばそう(最低)

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