スタバウォーズ~嫁の復讐~


宇多田理恵さんの陶芸展(昨日の日記参照)の帰り、外は雨が降っていた。夕立だった。

うっかり八兵衛並みにうっかりな僕は傘を持っておらず、雨の振る中しっとり八兵衛。

彼女は表参道の「桃林堂」というギャラリーでよく陶芸展を行っており、僕は何度か遊びに行っているのだが、必ず雨か雪が降るというジンクスがある。それも記録的な大雪とか土砂降りとか。僕が表参道に降り立つと、神泉苑における空海以上に雨を呼び寄せる力を持ってしまうのかもしれない。陶芸だけに、器をひっくり返したような大雨。なんつって。

幸いすぐ側にスターバックスコーヒーがあったのでそこで雨宿りすることにした。バナナフラペチーノなどという南蛮の魅惑的な限定メニューがあったのでつい頼み、優雅にコーヒータイムをくつろぐ育ちのよさそうな表参道セレブ達を尻目に、慌しくズズズと一気に飲む僕は所詮栃木生まれの練馬区民。

卑しい僕であるので、限定メニューを味わったことを嫁に自慢したくなった。嫁は僕以上にスタバ好きなのである。練馬区のわが街にはスタバがないので、かねがね何故出来ないのか、とよく不満を口にしている。

しかし恐れもある。この表参道に来ているのは、娘・R(2才)と息子・タク(7ヶ月)が昼寝したのを見計い、嫁に留守番を頼み、言わば家を抜け出てきたようなものだ。

乳飲み子を抱え普段ひとりで出歩くことなどできない嫁は口にこそ出さないが「ひとりで楽しんでいいな…」という気持ちが少なからずあるはずだ。そこへバカ面下げてバナナフラペチーノがどうのとか言ってしまうと、嫁の不満に火をつけてしまう危険がある。二度と僕の黒いバナナをフェラペチーノしてくれなくなることになるかもしれず。

言わぬがフラワーなこともあるか…と考え、留守番を頼んだ嫁への免罪符代わりに紀伊国屋のカステラをお土産として買って帰った。家に着くと、子供達はもう昼寝から起きて元気に暴れていた。

「あなた、遅いじゃないの…」

嫁が恨めしそうに言った。

「す、すまん、雨宿りで、フェラ、いやフラペ、いや、遅くなって…」

「Rが昼寝から目覚めてからずーっと『パパどこいっちゃったの?』『パパどこかな?』って何度も言ってたのよ!」

ああ、なんということだ。我が娘がそれほどまでに僕を恋しがっていたとは。スタバの誘惑に負けず、雨が降っていようとも駅に駆け込むべきであった。

「R、ごめんね。パパ遅くなっちゃった」

「ぱぱ、どこいってたの?

「…」

Rの澄んだ瞳に捕らえられると、ひとりバナナフラペチーノうめえとかやってたなんて言えない…。後でカステラ食べさせてあげるからね…。

「ところで嫁、バナナフラペチーノって知ってる…?」

「それもう飲んだよ」

「ふおおおおお!いつの間に!」

育児で家に縛り付けられている嫁ではあるが、押さえるところは押さえているようである。

Rにすまない思いをし、嫁には怒られ自慢も出来ず、そんな僕自身が情けなくてならぬ。自分で自分を責めてやりたい。

僕なんかくたばって死ね。スタバって死ね。スタバ亭四迷。これが一家の大黒柱と言えるのだろうか?とんだお笑い種である。

お笑いスタバ誕生。

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