娘のジャイアニズム宣言


息子・タクが生まれて半年になったお祝いに、嫁がプレゼントした。

布製のボワボワした箱のおもちゃで、うつぶせになったタクは手でペシペシと引っ叩いたりして弄んでおり、結構楽しんでいるようであった。

それをゴルゴ13の如く狙っていた者がいた。娘・R(2才)である。父親譲りのデューク東郷ばりのぶっとい眉毛をヒクヒクさせながら、見慣れぬ真新しいおもちゃに目を輝かせ、あっという間にタクから奪ってしまった。

彼女はよくタクが遊んでいるおもちゃを奪い取る。タクが遊ぶように…と側に置いてあげたぬいぐるみなどを全て別の部屋に持っていってしまうのである。

まだハイハイも出来ぬタクに抵抗する術はない。というよりも盗られたという認識もないのだろうが、最近タクに対する横暴が目に余りつつあったので、僕は敢えてRを叱った。

「R、それはタクのおもちゃだよ。返してあげなさい」

「めっ!Rちゃんの!」

Rの頭の中では既にこのオモチャは自分の所有物になっていた。タクの物は俺の物。このままではRがチュチェ思想よりも恐ろしいとされるジャイアニズムに染まってしまう。Rがジャイ子になってしまう。そんな娘はいやだ。

いつもは甘甘な僕だけれども、ここはRのジャイ子化防止のため厳しく問い詰めることとした。

「違うよ。それはタクのなんだよ。どうしても遊びたかったらタクに貸してってお願いしなさい。Rちゃんは『かーしーて』って言えるでしょ?」

「めっ!Rちゃんのよー!」

「じゃあRちゃんには貸しません。はい。タク、どうぞ」

それでも絶対己を曲げないRに対して僕は実力行使に出た。Rからおもちゃを奪い、タクの元に戻したのだが、

「うわあああああん!ああああん!」

とうとうRは棒立ちになって大泣きしてしまった。

「なかなか難しいねえ…」

一部始終を見ていた嫁が溜息交じりで言った。

「私も弟にこんな横暴なことしてたのかしら。覚えてないけど」

「僕も弟の物を奪ったりしてたのかなあ…。下の子って可哀想だな」

「弟に謝りたくなってきたわ」

そういえば僕が幼稚園の頃だったろうか。家の鉢植えを根っこから引き抜いてイタズラしたのを弟のせいにしたことがあった。弟は何も分からないまま怒られていた。

確かその後、弟に木のバットで頭を殴られたんだった。

そんな痛い記憶を思い出しつつ、

「Rちゃんもその内体力じゃタクに敵わなくなって来るんだから、気をつけたほうがいいよ」

泣きじゃくるRを抱き上げて、よしよしと慰めた。Rにはこのことを理解するにはまだ小さ過ぎるのかもしれない。僕もついキツめに叱ってしまった。Rがジャイ子になって欲しくない、と強く思う余りに…。

Rも僕も心を落ち着けるために、音楽でも聴こう。クラシックがいい…と、僕はレコードに針を落とすのであった。

曲はもちろんジャイコフスキーである。

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