ケーキ回復
息子・タクが生まれて半年になった。
もう半年か…と感慨深げに思い浸っていると、
「タッくん生まれて半年!半分才!おめでとう!半分才!」
嫁が半分才という、チンゲンサイのような聞き慣れぬ言葉を勝手に作って盛り上がっていたので、僕もその気になって会社帰りにケーキを買って来てしまった。これもバースデーケーキというのだろうか。半バースデーケーキ?いやいや、意味が分からない。まあいいか、と家に帰ると嫁は
「ローソクはないの?半分才だから1本を半分に切ってとかさあ」
「半分に切ったって1本は1本だろうが!」
「あ、そうか」
頭の中もおめでたくなっているようであった。しかし一番目の色を輝かせていたのは娘・R(2才)であった。ケーキの箱を見るなり教えてもいないのに
「うわー。おいししょー。ありがとうねー」
本能で中身を嗅ぎ付けてしまった。…おそろしい子!!
「いや、タクのお祝いのケーキなんだよ」
そう、主役はタクなのである。
「ハッピーバースデーたっくーん」
タクを膝の上に乗せ、誕生日ではないのだがハッピーバースデーの歌を歌ってお祝いした。しかしその後はRが待ってましたとばかりにケーキをガツガツと食べる。
一方でタクは布団の上に寝かされ、物欲しそうな目でRを見つめるのみ。主役の扱いをすっかり姉に奪われてしまった。タクはまだ食べられないのである。母乳以外では最近薄ーいお粥を食べ始めたばかりだ。
一心不乱に食べるRと、目が魔太郎(うらみはらさでおくべきか)になっているタク。
「R、タクにもちょっとクリームだけでも食べさせてあげようよ」
「めっ!たっくんは、おっぱいで、いいの!」
弟に食わせるケーキはない、母乳でも飲んでろ、という冷たい姉の仕打ち。
嫁も嫁で、僕はいらないから残りのケーキを全部食べてよい、と言ったら
「ホントに?」
ご馳走を目の前にした石塚(でぶや)のような顔をして上機嫌になっていた。これは思わぬ効果である。ここぞとばかりに久しく絶えてなかった夜の営みをお願いしてみてはどうだろうか。
甘いケーキに甘い言葉をかけてあげれば…。よし。気の利いたセリフを考えなければ…。えーと、えーと、
「僕のバースデー性器も食べてみるかい?」
そこまで睾丸、もとい、厚顔無知にはなれなかったので諦めた。
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