父御は夢ぞ、ただ狂へ


祝日の昼下がり、嫁から娘・R(2才)の昼寝をさせるよう命が下った僕。息子・タク(5カ月)はとっとと寝てくれて助かるのだが、Rはそうはいかない。


「はい、R、ねんこ」

どんな女性にするよりも丁寧で濃厚なベッドテクニークをもってRを寝床に誘い、まだ眠りたくなく、ふざけて暴れるRに小鳥のさえずりのような子守唄を歌ってやると、Rはトロトロと眠りの世界に入っていったのであった。よしよし、今日は素直に寝てくれた…

というところではっと気が付いた。Rはまだ起きていて暴れており、今までいなかった嫁が何故かすぐ横におり、くわわわっと恐ろしい表情でこちらを睨んでいた。

「あれ、さっき寝たと思ったのに」

「なに寝ぼけたこと言ってんのよ。あなたが一番先に寝てるのよ」

嫁の言う通り僕は寝ぼけていた。Rを寝かせている間に自分だけが即寝てしまい、
Rが眠りに落ちた夢を見ていたのであった。夢オチかよ!

「いやー、夢の中ではちゃんとやってたんです、僕…」

と弁明したものの、嫁は「味噌汁で顔洗って来い」という顔をしていた。

そしてその夜も寝かしつけ。今度は嫁の方がさっさとぷしゅるるる…という沸騰したヤカンのような息を立てて寝てしまったので、僕はRが眠りに落ちるまでしっかり抱き締め、それを見届けてそっと嫁の隣に寝かせたのだった。翌日、

「夜は僕がだっこして寝かせたんだせー」

と嫁に言うと

「はあ?それも夢なんじゃないの?」

真っ先に寝ていたくせにちっとも信じてくれないので、僕も自分の記憶すら信じられるか曖昧になってしまい、夫婦とは何か、人間とは何かを考え込んでしまった。

そう、全ては夢。にんべんに夢とかいて儚いと読む。僕のようなオタク男が結婚して子供まで授かれるなんてことは夢なのだ。ある時ふと目が覚めてみると、僕はひとりゴミとエロとマニヤなグッズに埋もれた部屋で暮らしている、ただの孤独なオタクだったのだ…。

という夢オチが待ち受けているのかも知れない。

オタクの夜の夢。

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