サプライズとリアライズ

トロゲーセンの前を歩いていたら、UFOキャッチャーの中にいたトロのぬいぐるみと目が合ってしまった。

「取ってニャー」

というトロの訴えが確かに聞こえてきたのでついゲットしてしまった。

かつての僕はトロのグッズを、二十世紀初頭の千島列島におけるラッコ猟ばりに乱獲していたが、久しぶりにゲットしたトロであった。3年ぶりぐらいだろうか。

それだけブランクがあると、昔は屁とも思わなかったことが今では引っ掛かる。トロを抱いて持ち帰るのがとても恥ずかしいのだ。僕をちょっと羨ましげにチラ見しているカップルの視線が痛い。

「いや…これは子供達のためだ」

そうだ。子供達へのプレゼントなのだよ。決して僕が欲しいわけじゃないんだよ!僕は自分にそう言い聞かせると、自然にシャイネスも吹っ飛んだ。

インサートコインの図ほらほらそこのカップル。君達もこんなゲーセンでインサートコインなんかしてないで、早く帰ってインサートチンコでもしたまえ、と意気揚々と家に帰れたのであった。子供を理由にした大義名分は便利である。

子供達のため、というのは無論ウソではない。帰宅した時は既に娘・R(3才)も息子・タク(1才)も、嫁ですら寝ていたが、トロをそっとR達の枕元に置いた。起きたら驚くであろう。僕がトロを乱獲して家に数十匹いるだけあって、子供達にもトロはおなじみである。喜ぶ姿を想像しただけで楽しい…と僕も寝床に着いたのであった。

翌朝。

「はいRちゃん起きましょうね~。あっ!ここにいるのはなんだろう!」

非常にわざとらしい呼びかけをしてRを起こしたのだが、

「とろちゃん」

Rはそう一言返事をしただけでスルー。

「あ、ちょっと、これは昨日パパが…」

必死に僕が呼びかけてもRはトコトコとおもちゃ箱に行ってしまい

「ぱぱ、みてみて~。しまじろうの本」

嫁が言うにはこれも昨日郵送されて来たのだ、という新しい絵本に夢中なのであった。タクもRから奪う勢いで絵本を見ようとしがみ付いている。

「僕は君達にちょっとだけでもサプライズの反応をして欲しかったのに…」

見向きもされないかわいそうなトロ。

「何十匹もいるのにまた獲ってきてどうすんのよ。それにトロの白い体もあなたのタバコで茶色くなっちゃうし…」

更に嫁がとどめの追い討ち。あんまりだ。

僕はただ少しでもこの家庭が面白くなるように、と思っただけなのに…とまだ白いトロの尻尾をいじりながらいじけたのであった。

尾も白き こともなき世を 面白く…。

問題:家にあるトロを実際に数えてみたら、何匹いたでしょう?
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