2006年10月25日
親のダメ叱り。
息子・タク(1才)が遊んでいたおもちゃを娘・R(3才)がひょいと取り上げたので
「ひーん」
タクはなす術もなく泣いていた。僕はその様を市原悦子家政婦ばりに部屋の片隅から覗いていたので、Rを叱らなければならないと思った。人に迷惑をかけることはいかぬ。
Rは自分が遊んでいたおもちゃを、タクにちょっかい出されると烈火の如く怒るくせに、タクの物は勝手に奪うところがある。お前の物は俺の物。俺の物は俺の物。これではジャイアンになってしまうので
「R!タクが遊んでたのに取っちゃダメでしょ!ああタク、かわいそうに」
自分でも珍しくキツい口調で叱った。Rはしゅんとなった。
が、慣れぬことはするものではない。困ったことに、そのしょぼくれている姿がたまらなく可愛いいのだ。ただ、ここでぎゅっと抱きしめてしまったら叱った意味がなくなる。ライオンは我が子を千尋の谷に落とすという。そして少子化対策に追われているという。
タクの物を奪うのは初めてではなく度々あることなので、敢えて突き放しもう一歩踏み込んで叱らねばならない、と思った。
「R、ごめんなさいと言いなさい」
Rは沈黙。
「言わないの?」
コクンと頷く。なかなか手強いではないか。
Rは結構強情なところがあって、叱ってもお前はアメリカ人か、ってぐらい決して謝らないことがある。そんな時お尻ペンペンをしようかっと迷うのだが、出来れば体罰は与えたくない。話せば分かるのだと信じたい。
為せば成る 話せば分かる何事も デラべっぴんは 真夜中の友。
「いいかいR。タクが遊んでるおもちゃを使いたいなら『かーしーて』って言わなきゃだめでしょう?」
Rの目をじっと見て語りかけることにしたのである。ところが
「Rぱーんち!」
「ぐわああああ!」
逆にRの鉄拳を食らってしまった。…恐ろしい子!親の顔が見たい!嫁、お前か!あ、僕もだ!
「君がそういう態度なら、ごめんなさいと言うまでパパは遊んであげません」
反省の色がないRに対し、心を鬼にして背を向けてタクと遊ぶことにした。Rはひとりモゾモゾと寂しそうに別のおもちゃをいじっている。ああ、その姿もまた可愛い。
「どうだ、ごめんなさいする気になったか?」
「ぷんぷんぷーん」
このセリフはRがちょっと拗ねた時に発するものである。本気でテンパった時には泣き叫ぶ筈。つまりまだ余裕があり、本当に反省してない。でもその仕草がまた可愛くて…(そればっか)
要は僕がRをたまらなく可愛いと思っていることを、Rはお見通しなのだ。またそう思わせるようにソソる仕草をピンポイントで仕掛けてくる。3才児とはいえ、女は男よりもかけひきが1枚も2枚も上手なのである。
そんなこんなで締りのないお説教を続けていたら、お風呂の時間になってしまった。僕はRと一緒に入らなければならない。その前に何らかの形でケリを付けなければ、今後僕が叱っても効果がないものになってしまう。
「じゃ、R、これからは人の物を取っちゃだめだよ。分かった?」
「…はい」
「よーし、じゃあパパとお風呂入ろうー!」
もうRを抱きしめたくて仕方がなかった僕は、裸で抱き合ってお風呂に飛び込んだのであった。その後真夜中、ひとりビールをあおり
「ちゃんと叱れる父になりたい…」
と慟哭する僕の姿は誰も知らない。
小さな女の子は、叱るより愛でたいと思う男の性。
これを「叱る源氏」といいます。
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