気まぐれ入園児ロード

夜、嫁が困った顔をして僕の部屋に入ってきた。

「体が火照ってうずいてしょうがないの。あなた慰めて」

ということに違いないのかな?と思ってわくわくしてたら

「これ、R(3才の娘)の幼稚園入園面接で必要な書類なんだけど…」

思いっきり違っていたのでがっかりした。

「家から幼稚園までの通園ルートの略図を書かなきゃならないんだけど、こういうの苦手で…」

「分かったよ、僕が書くよ」

Rの幼稚園までの道の図。すなわちロードマップ。道を歩く時は必ず僕か嫁の手を握って離さないRが、もう幼稚園に通うことになるのか…。

そう思うと目頭に熱いものが込み上げて来る。ここからまさに人生を歩んでいくんだね。幼稚園ロードから学校ロード。学校ロードから通勤ロード。そして…バージンロードを歩いて父の元から離れていくのだ。

うおおうおおおう。父親とはなんと悲しい存在であることよ。涙と鼻水と涎で用紙を汚すといけないので、落ち着いてからロードマップを書くことにした。注意事項に

「目印となる建物等を出来るだけ詳細に書いて下さい」

とあったので、目印となりそうなのを思い出してみた。あそこに酒屋があって、その先の交差点のちょい脇におかまバーがあって、こっちにコンドーム自販機があって…。

ってバカ。そんなものばかり書いていたら、まるで僕がそれらをしょっちゅう利用し、酒とおかまと女体に溺れているように映るではないか。幼稚園側が悪い印象を持ち、落とされてしまうかもしれない。もっと高尚な目印を書くべきだ、と思い「ルーブル美術館」と書こうとしたのだが、それは明らかに嘘だとばれてしまう。

真面目に書かなければならない。出来るだけ綺麗な図を書いて少しでも印象を良くしたい。実際は合否とは関係ないかもしれないが、そう考えるのが親心。待ってろ嫁よRよ。お父さんが立派なロードマップを書いてやりましょうぞ。

えーと…と、ブツブツ口に出して確認しながら作成にかかった。

この道を書いて…ここに産婦人科があって、もう少し行くとお墓があって…うははは、まさに「揺り籠から墓場までロード」だなこれ…あっ。ギャアア!ひとりで下らないギャグに笑ってたら間違えた!書き直し!

2回めのロードマップ作成だから、ロード第二章。なんつって。

事故なくRが幼稚園に通えますように。その前に受かりますように。


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