野蛮なモーニング娘。

「あなたあん。起きてえん」

「んんーまだ眠いよ…」

「ほら遅刻しちゃうぞお。ちゅ」

「あ、変なところが先に起きちゃった」

「いやあん」

「ぐへへへへへ」

「ああんお鍋の火がつけっ放し~」

なんてことをしていた新婚時代も今は昔、もう嫁は絶対そんなことをしてくれなくなった。人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり。いわんや新婚生活など1、2年がいいところである。

尤も今の嫁はそれどころではなく、朝から家事に追われ、息子・タク(1才)も年寄り並みに早く起きている。ラブラブがなくなり、バブバブが取って代わったというわけである。ガーガー寝ているのは僕と娘・R(3才)だ。

そんな訳であの甘い目覚めをもう一度と願う僕は、嫁に代わりRが優しく起こしてくれる日を夢見て寝床に着く毎日であった。

「お父様、起きて」

「んんー。まだ眠いよー」

「遅刻いたしますわよ。ちゅ。まあ、お髭が痛うございます」

「フフフ。お姫様をキスで起こすのは僕の役目なのに、逆になっちゃったな」

「まあ。お父様ったら。今コーヒーをお入れしますわ」

「ああ。ブルーマウンテンを頼むよ。苦いヤツを。人生のようにね…」

「はいお父様。あ、ばあや。お千代ばあや。お父様のお着替えを」

こんな娘いねーよ。誰だよお千代って。しかし夢見るのは自由なので、えへへと枕に涎を垂らしていたのだが、やはり現実は厳しいものであった。

今朝はそんな理想の目覚め程遠いものであった。おはようのちゅーどころかRに腹を立て続けに2発思いっきり叩かれた。しかもタクも隣でベチベチ2発。もう痛いのなんの。

「君たち、いつもオモチャの奪い合いしてるくせに、こういう時は団結するんだね…」

それでもゴロゴロしていたらRが突然

「かじりんー!おきろー!」

僕の名を呼び捨てにして怒鳴ったのである。これで面食らってすっかり目覚めてしまった。というのも、普通Rやタクには「パパ(もしくはお父さん)だよー」と言っているので、面と向かって「お父さんの名前は『かじりん』ですよ」とキチンと教えたことがなかった。だから僕や嫁の名前など言えないと思っていたのである。

ちょうどRの幼稚園入園のための面接が近付いており、面接では両親の名前を質問されるらしい、という噂を聞いたので、

「そういやまともに教えたことがなかったね」

やばいよやばいよと嫁と話していたところだったのに、いきなり僕を呼び捨てにして叩き起こすとは。

「一体いつの間に覚えたんだ?」

僕は首をかしげていたが、

「栃木に帰ってた時に、あなたのお母さんがいつもあなたの名前を呼んでたでしょう?それじゃないかな」

「それだ!」

多分嫁の言うとおりだと思う。子供は思わぬところを吸収するなあ…。ともかくこれで僕のバラ色の目覚めの夢は消し飛んだ。

名前を呼ばれるのは、呼び捨てでも面接が終わるまではそれでもいい。ただバシバシ叩くのは勘弁して欲しい。本気で痛い。

太平の眠りを覚まされ如何せん。たった4発で朝も眠れず。


エンピツ投票。

■はてなアンテナに追加アンテナに追加

トラックバック

トラックバックURL(管理者の承認後反映されます。言及リンクなきものは反映されません):
http://www5e.biglobe.ne.jp/~kajilin/tt-tb.cgi/2-259

« 東京ネダリンピック | TOP | ファーストキスはレモン牛乳の味 »