発狂バースデートゥーユー

息子・タクの1才誕生日パーティーをもう一度栃木の実家でささやかながら行なった。

母に頼んで予約してもらっていたバースデーケーキの箱を開けてハッピーバースデー・トゥー・ユー。

…といきたいところだったが、何故かローソクが入っておらぬ。

「母さん、ローソク頼んでなかったの?」

「頼んでたよ。こないだR(3才の娘)の時もちゃんと入れてもらってたし」

「おかしいなあ。ローソクのないバースデーケーキなんて、カツラのない姉歯さんみたいなものではないか」

「仏壇にローソクあるけど」

「誕生パーティーを法事にする気か!」

「いいよ、もう始めましょう」

初っ端からゴタゴタがあってハッピーバースデー・トゥー・ユー♪と歌ってケーキを切り、みんなでばくばく食べ始めたところで僕の血の気が引いた。

「…ごめん、ローソク、僕の足元にあった…」

「まったく、あなたって人はもう…」

この時の嫁のなんともいえない視線が忘れられない。すみません。どんな叱責も受けまする。このローソクを熱して蝋を垂らしておくれ。ムチでぶっておくれ。…子供が寝たらね。ウフフフフフ…とぼーっとしていたら

「あっ。こらこら。ローソク食うな」

タクの手が伸び、もう少しでローソク5本まとめて食われるところであった。今日の主役なのに、ケーキのスポンジしか食べさせて貰えないお前の気持ちは分かるが(タクは乳製品はまだダメ)、悪いことは言わないからやめなはれ。

「ぎゃああああ!」

タクとローソクの争奪戦を繰り広げていたところ、嫁の悲鳴が轟いた。振り返ると、嫁が寿司用の醤油の取り皿を片手に呆然としていた。そしてその下にはまだ半分ほど残っていた純白のバースデーケーキが、ドドメ色に近い茶色になっているではないか。

「醤油…ケーキにこぼしちゃった…」

「まったく、お前って奴はもう…」

ハッピーバースデー・ショー・ユー…。


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