命日、いわゆるメイデイ
父の命日であった。
墓は田舎にあるので墓参りはまだなのだが、家に飾ってある父の写真スタンドに向かって拝もう…と朝起きたら既にスタンドがテーブルの上に置かれていた。
嫁め…憎いことをする。
「じゃ、みんなで拝もうか!」
娘・R(3才)と息子・タク(1才)にも拝ませようとしたら、Rがちっとも言うことを聞かない。
「ほらほらR、ちゃんとおじいちゃんにのんのんして」
「だめっ!」
「言うこと聞かないとお尻ペンペンだぞ!ロリコンのお父さんがむき出しのお尻をペンペンするんだぞ。こんな危険な体罰はないぞ~」
「だめなのっ!」
Rはとうとう手を合わせることすらしなかった。僕がそんな扱いされたら草葉の陰で号泣して枕元に立っちゃうぞ。親父、すまない…。
「しょうがない、じゃあタクはできるかな?お父さんの真似してみよう。お手々を合わせてぱっちん。お手々の皺と皺を合わせてしわよせ~」
「あうー!」
最近人の手の動きをモノマネするようになってきたタクは、素直に手を合わせてニッコリ笑った。
「お、できた。すごいねー」
坊主頭のタクが手を合わせると本当に小坊主のようである。一休さんみたいだ。
今度はRが突然押入れを開けて
「おじいちゃん、みつけたー」
などと言うではないか。
「R…おじいちゃんが見えるのか?そこにいるのか?」
「うん、いるの」
まさか…命日に孫の顔を見に来てくれているのか…と思わず目頭が熱くなってしまったが、嫁が笑って言った。
「違うの。こないだ私のお父さんが来てそこでかくれんぼしてたのよ。それを思い出したんでしょ。Rにとってのおじいちゃんは私のお父さんだから…」
「なんだ…」
押入れにまで隠れるとはこの嫁父、ノリノリである。ドラえもんかよ。そう。Rもタクも僕の父を見ていない。僕の祖父も、父方母方両方とも僕が生まれる前に他界していた。あまり長生きしていないのである。
将来Rやタクに子供が出来た時、僕も額縁の中の人になっているのだろうか。そして子供達が孫達と僕の遺影に手を合わせる時、どんな姿になっているだろうか。
Rは…主婦かな。Rを孕ませた相手がいるということは、今の段階では考えただけでハラワタが煮えくり返るが、大霊界に旅立った後ではその辺は悟ることが出来ているかもしれない。
タクは…ちゃんと社会人になっているだろうか。拝んでる一休さんっぽい姿がサマになっているからトンチ和尚もいいかもしれない。そもさんせっぱ。父に般若心経を唱えておくれ。
建築士というのもなかなか捨てがたい。姉歯事件で揺れまくった業界に、トンチを武器に渡り歩くタク。
「震度8でもビクともしないマンションを作れ!」
という施主の無茶な要望にでも
「はい。作りました。では震度8の地震を起こしてください」
とトンチで切り抜けていく。
これを一休建築士といいます。
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