百 花 の そ よ 風    マネージャー余話  吉沢武久

第 33 回   藤    2025年4月1日

      もう何年も前になります。アトリエ作者から「 一番好きな花はなに? 」と聞かれたことがありました。即座に「 藤 」と答えました。

    幼い頃、茨城県の田舎で生まれ育った私は、田んぼのあぜ道に咲いている藤の花が、好きだったのです。花丈1メートルにも満

    たないちょっと大きめの鉢植えにできそうな藤でしたが、その気品さ、清楚さ、つつましさは憧れにも似た気持ちで毎年魅入って

    いたのです。やがて小学生に上がり、中学、高校と成長していくうちに、その田んぼの藤はいつの間にかなくなりました。

     その幼いときのピュアな気持ちが忘れられず、藤が一番好きだと言わせたのでしょう。今回の百花ではその藤を取り上げました。

                                     
     
    作者も藤の花は好きです。藤と同じマメ科の花(豌豆やカラスノエンドウ等)も好んで描きます。藤は水揚げが悪いので、切り花

   では売っていません。モデルにして描く藤は鉢植えで買ってきます。花屋さんの店頭には、毎年見事な藤の鉢植えが並びます。

   近年は買わなくなりましたが、かつては何度かモデルとして購入しました。花が終わった後、次の年も咲かせようとベランダで越冬

   させるのですが、咲いたためしがありません。根気よく4〜5年育てても、葉は元気に繁るのですが、花はつけませんでした。

    「 もうそろそろあきらめたら!!」 作者のその一言で処分した藤もありました。

    日本各地には藤の名所があります。かつて豊橋公園内にも自生の見事な藤があったのですが、残念ながら伐採されてなくなり

   ました。(どう して、どうして・・・)近くでは岡崎城公園の藤、少し足を延ばせば江南市の藤、いずれも見に行きました。今年も岡崎

   の藤を見に行こうかな、などと話していたら、知人が静岡の磐田に熊野(ゆや)という有名な藤があると教えてくれました。

                     

    熊野の藤とは、花房が1.5メートルにも達し、樹齢は850年で国の指定天然記念物とのこと。平安時代の末期に植えたのは、

  磐田に住んでいた「熊野御前」という美しい女性です。平清盛の次男、宗盛に見初められ京に上ります。その熊野の元に母親が

  病という知らせが届きます。母を心配する熊野は故郷に帰りたい思いを歌に託します。

  「いかにせん 都の春も惜しけれど なれしあずまの 花やちるらん」 その心に打たれた宗盛は熊野が故郷に帰ることを許します。

   母の死後、熊野は尼僧となり母のために植えたと伝わるのが「熊野の藤」なのだそうです。今年はこの藤を見に行く予定です。

   「藤」について微笑ましい話をもう一つ。(作者がラジオかテレビで聞いた話とのことですが)

   演歌歌手、藤あや子さんが新幹線で移動中、周りの人に藤あや子と気づかれないようにしていたのに、静岡県を走行中に通路の

   反対側のおばさまたちが「あっ、藤さんだ。やっぱりきれいね。素敵!」との声にびっくり。{どうしてわかっちゃんだろう}と思ってい

   たら、「日本一の山だものね」車窓の外には富士山がきれいに見えていました。富士山がきれい、と言ったのを、藤さんがきれいと

   誤解してしまったそうです。誤解ではありませんよ。富士山も藤さんもきれいです。


                   

                                                      
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