百 花 の そ よ 風    マネージャー余話  吉沢武久

第 40 回   吾 亦 紅    2025年11月1日

  百花は9月百日紅、10月千日紅と「紅」が続きました。そしてシメの11月は吾亦紅です。吾亦紅は

バラ科の多年草で秋の野に咲く、風情のある花です。茎の先端に暗紅色の小さな花を千日紅と同じ

ように、穂状に咲かせます。強く主張する花ではないので、アトリエ作者の吾亦紅を主役にした作品は

探してみたのですが、見つかりませんでした。吾亦紅が描かれているのは、同じ時期に咲くコスモスの

引き立て役として、よく登場します。

 百日紅をサルスベリと読める人は少ないと思います。そして、吾亦紅も同じようにワレモコウと読める

人も少数派でしょう。吾亦紅が注目されるようになったのは、2007年のNHK紅白歌合戦からです。

                                
     
   その年に大ヒットした吾亦紅を歌う杉本真人さん、58歳にして当時最年長で初出場しています。その

 杉本さんでさえ、作詞したちあき哲也さんに「これなんて読むの?」と聞いたそうです。紅白で流れた

 のと、「亦」が「〜もまた」という意味から「我もまた紅です」と読めるので、ワレモコウは多くの人に知ら

 れることになったのではと思います。

  控えめな花なのに、「私だって紅よ」と主張している芯の強い女性をイメージさせる命名と思います。

                                                

    ワレモコウの名前の由来は他にもあります。根が生薬となり「木香」に似た芳香があることから吾木香

 や莟の形が家紋の一つ、木瓜文(もっこうもん)を割ったような容姿をしているため、割れ木瓜文とか。

  私の推しは「我も恋う」です。静かに控えめに恋心を持って咲く姿・・・かの情熱的な歌人与謝野晶子は

   「あるが中に 恋の涙のわれもかう われの涙の 野のわれもかう」 と詠いました。若山牧水は

   「吾木香 すすきかるかや 秋くさの さびしききわみ 君におくらむ」 という一首を残しています。

  万葉集や源氏物語、徒然草にも吾亦紅は登場します。その控えめな美しさが、平安の頃から日本人に

 愛されてきたのでしょう。現代の俳人の多くも吾亦紅を詠んでいます。

    何ともな 芒(すすき)がもとの 吾亦紅  正岡子規

    吾も亦(われもまた) 紅なりと ひそやかに  高浜虚子

  主役になる花はたくさんあります。今は引き立て役でも、吾亦紅が主役となる作品もいずれは完成する

 日が来るかも知れません。作者さん、来年は期待してもいいでしょうか?

 

                    

                                                      
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