百 花 の そ よ 風    マネージャー余話  吉沢武久

第 13 回  木 槿 (ム ク ゲ)   2023年8月1日

   「木槿」、この花を知らない人にはとても読めない漢字と思います。「槿」一文字だけでもムクゲと読みますが、中国語の

 木槿(ムーチン)と書いてムクゲと読むのが、一般的です。アオイ科フヨウ属の落葉樹ですから、庭木や生け垣としても広く

 植栽されています。中国が原産で、日本へは古く奈良時代あたりに渡来しているようです。

  茶人千宗旦(せんそうたん 千利休の孫)が茶花に好んで使ったとされたことから、宗旦という品種もあります。それに加

 えて、木槿は朝に咲き、夕方にはしぼんでしまうという儚さが、一期一会の茶道精神に合致するということで、現代では夏

 の代表的な茶花になっています。

                        

   一日花であるので、中国唐代の詩人白居易が詠んだ詩の一節から「 槿花一朝の夢 (きんか いっちょうの ゆめ)」 や

 「 槿花一日の栄(きんか いちじつの えい) 」というような諺も作られています。いずれも意味は、木槿の花はたった一日

 の命だが立派に咲いて全うする。人の歩みにおいても、調子の良いときは長続きしない。謙虚さを身につけなさい。と戒め

 ているのです。

  俳句の世界でも松尾芭蕉が詠んだ有名な句があります。  道のべの  木槿は馬に  くはれけり

 また、現代の俳人 稲畑汀子さん(昨年91才で逝去)は、一日花の木槿をこう詠んでいます。

  咲きそめし  花夕べには  散る木槿   このように、木槿は一日花としてその存在を主張されていますが、我が家の

 ベランダに住む木槿は、一日花ではありません。少なくとも朝咲いた花は、次の日も綺麗な姿を留めています。莟を付けた

 枝を切って挿しておけば、家の中でも咲いてくれます。我が家の住人(花?)となってもう10年以上経っています。ところが、

 ベランダに合わない木槿もあったのです。

                    

  これも10年以上前のことと思います。お盆休みにアトリエ作者の実家、長野に帰省したときのことです。実家のすぐ隣にある

畑に綺麗な木槿が咲いていました。育てて手入れしていたのは、作者の兄のお嫁さん敬子さん(5年前に他界)でした。とても

綺麗なので、赤と白の枝を一輪ずつ頂いて豊橋に持ち帰りました。この花も一日花ではなく、次の日も咲いていたと記憶してい

ます。花がしぼんだ後、どうして残しておいたのか、こちらの記憶はないのですが、赤い方の枝に根が出たのです。それを鉢に

植え替えてベランダで育てました。茎と葉は元気に成長し、50センチぐらいまでになりました。でも花は毎年一つか二つ付ける

のが精一杯。マンションの大規模修繕の予定も入り、整理せざるを得なくなりました。

 作者の実家から頂いてきた木槿、むげに処分するのも忍びなく、私の父母を埋葬してあるお墓に移植しました。そして3年目

の今年、見事に30個以上の花を付けたのです。{好きなだけ持って行っていいよ}敬子さんの笑顔が浮かびました。

 稲畑汀子さんのお父さん、高浜年尾はこんな句を残しています。     木槿垣  その人ありし  日のことを


                

                                                      
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