百 花 の そ よ 風    マネージャー余話  吉沢武久

第 5 回  野 ブ ド ウ    2022年12月1日



  アトリエ作者がNHK文化センターで、水彩画教室講師を務めるようになって、25年の月日が流れました。健康で講師としての

務めが果たせる限りは続けるつもりでいました。ところが、コロナ禍の影響でしょうか、NHK文化センター各教室の生徒さん数も

減少し、来年3月には全ての教室が閉鎖されることになりました。残り4ヶ月の務めですが頑張ってもらいましょう。

 この水彩画教室ですが、「 花を描く 」という形容詞がついています。なのに、私が知る限り、トマトやスイカ、ブドウの果実類、

今の季節なら紅葉の葉っぱなど、「花 」とは言えない物も題材にしているのです。

 「花を描く、と言っているのに果物や葉っぱを取り上げると、生徒さんから文句が来ないの?俺だったら言うなぁ」と何度か

問うたことがあります。でも「花を描くには葉っぱが大事なの」とあまり気にかけない様子。私から見れば、「看板に偽りあり」

と思うのですが・・・で、私も作者に倣って、今回は百花と言っても花ではなく、野ブドウを取り上げました。
 

                        

 私の生まれ故郷は茨城県石岡市、筑波山と霞ヶ浦に挟まれた関東平野の農村地帯です。東京に住んでいた両親が戦火を

逃れて疎開した田舎でした。家の回りは田んぼと里山で、自然がいっぱいの三村という村でした。友達の家は皆農家、遊び場

は野原や小川、里山です。昆虫を捕ったり小川で小魚やシジミも捕りました。姉のママゴトに付き合って野に咲く花を摘んだりも

しました。その中に野ブドウも有ったと思うのですが、野ブドウという正式な名前を知ったのは、作者と出会ってからです。

 子供の頃にはほとんど意識もせずに見過ごしてきた野ブドウですが、作者は綺麗だ、素敵だ、絵心を誘われる、などと言うの

です。そして毎年、この季節になると描くのです。

               


  確かに、作品となった野ブドウを見れば、「あっ、こんな風に綺麗な実なんだ」と思うようになりました。春から夏にかけて、うす

黄色の小さな花が咲き、緑色の実が大きくなるにつれて、淡い水色・濃い紫・ルリ色・白磁色等美しい色に変化します。これなら

花を描く水彩画教室で取り上げてもいいかも、と納得したのでした。数年前、作者の花友の作品展に出掛けた時、野ブドウを描

いた作品に「森の宝石」という作品名が付けられていました。何とぴったりの画名!サファイア色の野ブドウが描かれていました。

 この野ブドウをモデルとして描くのに、採取してくるのもマネジャーの仕事の一つです。車を走らせている時に、回りの状況から

野ブドウのありそうな所を見つけるようにしています。見つけるコツは、田舎で育った子供の頃の体験が役立っているようです。

 豊橋市内でも何カ所か野ブドウの生えている場所を見つけました。私が子供の頃そうであったように、野ブドウに興味を持つ人

は、ほとんどいないように思えます。ただ、その年によっては美しい球形になる時と、期待はずれの時があるのも事実です。今年

は昨年に比べると劣りますが、作者が描くのに充分な質と量を確保できました。11月の教室の題材にもなったようです。


                     
                                                      
  
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