百 花 の そ よ 風    マネージャー余話  吉沢武久

第 4 回  野 菊    2022年11月1日

 
 「小寒い風に ゆれながら けだかくきよく 匂う花」 と文部省唱歌で歌われている野菊が、4番目の百花です。この歌は石森延男

作詞、下総皖一作曲で昭和17年に発表されています。一番で「 きれいな野菊 うすむらさきよ 」、二番は「 やさしい野菊 」、三番は

「 あかるい野菊 」です。この歌詞を見ても、野菊の花言葉が「 清爽 」ただ一つだけ、というのに納得です。

 きれいで優しく明るい野菊。15才の少年政夫が、2才年上のいとこ民子に「野菊のような人」と告白したのは、伊藤左千夫の小説

「 野菊の墓 」の有名な一場面です。政夫はその前に「 僕はもとから野菊がだいすき 」と語っています。淡い恋心を持った二人は、

それぞれを花に例えています。民子は政夫に「わたし急にりんどうが好きになった」と言います。そしてすぐ後に、「政夫さんはりん

どうの様な人だ」と続けます。残念ながら二人の恋は、成就せずに悲しい結末で終わります。
 

                        

 この小説「野菊の墓」を絶賛したという夏目漱石は、次のような俳句を残しています。

     野菊一輪  手帳の中に  挟みけり

 明治から昭和にかけての俳人高浜虚子が詠んだ野菊の句に { 其の人を  恋ひつつ行けば  野菊濃し } があります。

 このように秋の季語にもなっている野菊ですが、植物図鑑には載っていません。野菊とは野生に咲く菊のことで、いろいろな

種類があるのです。色もうすむらさき色に加えて、白や黄色、ピンクもあるようです。

 我が家の畑の片隅にも、うすむらさき色の野菊が咲いています。数年前、道端に咲いていたのを2〜3本持ち帰り、移植した

のです。以来、毎年咲いてくれます。 コスモスとほぼ同じ時期に咲くので、一緒に摘み採って持ち帰ります。うすむらさき色で

花の形状からすると、ノコンギクの可能性が高いように思います。アトリエ作者も好んで描いています。

                          


  今月号のトップでも花瓶に活けたコスモスの後方に、野菊がその引き立て役として描かれています。11月の部屋では「清爽」

とその花言葉をネーミングにしています。

 今回百花に野菊を取り上げたことで「野菊の墓」を読み直しました。その解説から伊藤左千夫43才にして初めての小説だった

ことを知りました。左千夫の若き日の初恋が、根底にあるのかと思いましたが、そのことには触れられていませんでした。私にも

似たような若き日の淡い恋心から、年上の女性を花に例えて詩を作ったことがあるからです。

・・・少女に感じる  小さな白百合  青いレモン  赤いバラ  そして  風にゆれるすずらんの花を ・・・ 22才の時でした。


                             
                                                      
  
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