ぐっすん先は闇

草木も眠る丑三つ時。シクシクと泣く声が聞こえた。

娘・R(3才)であった。

このところずっとハナミズを垂らし、咳き込み、風邪っぽい症状が続いていたのである。

「大丈夫かい?今日も寝苦しいのかな…」

おでこに手を当ててみたら熱い。

「嫁、こりゃ熱があるぞ!」

慌てて水枕などを用意して

「かわいそうに。辛いかい。大丈夫。みんなここにいるよ」

これまた熱くなっているRの手をそっと握った。ようやく泣き止んだものの、瞳は涙で濡れ、顔には苦しみと不安がないまぜになって表れていた。Rには申し訳ないがその表情が惚れ惚れするほど美しく思えた。美しいが故に尚更守らなければならぬ。

午前2時過ぎの真っ暗な寝室。本来Rが来起きているはずがない時間帯。未知の世界にいる心境であろう。僕は子供の頃そう感じていた。極稀に何かの拍子で深夜に目覚めた時の心許なさと言ったら。親は寝ている。テレビもやってない。周りは闇。自分だけ取り残された世界に迷い込んだように思えたものである。

また、唯一例外として深夜まで起きていたのは大晦日の夜であったが、除夜の鐘を聞きながら初詣に行く途中、車の中からセブンイレブンが閉まっているのを見て(田舎なので店名どおり11時に閉まるのである)

「セブンイレブンの明かりが消えてる…!」

大層ショックを受けたものだった。夜11時までの営業なんてのは今は何のインパクトも無いが、当時としてはほとんど不夜城のイメージに近かった。

「それすら闇に飲み込まれている深夜って…」

光も届かない深海の水圧のような闇の重圧と、今にも百鬼夜行が飛び出して来そうな恐ろしさがあった。大人になってからは夜こそお楽しみのエロスタイムであり、闇の重さ・怖さを感じるのは闇鍋ぐらいとなってしまった。しかし子供の頃は闇に対する畏怖の念が確かにあった。

3才のRにとっては尚更心細く感じるであろう。加えて体調を崩している。だから水枕や冷えピタなどの処置はともかく、「パパもママもいるよ」と安心させることが大切なのではないか、と手を握り続けた。

そしてもう一度おでこを撫でてみる…。

「あれ、熱が下がっちゃってるよ」

先程手を当てた時からほんの10分、体全体は確かにほんのり熱いが、その時感じたおでこの熱はあっという間に消え去っていた。子供の体温はガンと上がるとは聞いていたが、下がるのも急なのだろうか。

しかし1時間後に確認したら再び熱くなっており、痛々しくぐったりしているRの姿を嫁と眺め、代わってやりたいよと話した。

そんなことをゴソゴソやっていたせいであろうか、息子・タク(1才)も目覚めてしまった。タクはむっくり起き上がるなり

「ぱぱ、なにいてんの?(何してんの?)」

いきなりニコニコ超ハイテンションで、立ち上がり踊り出す始末。お前こそ何しとんじゃ。闇を闇とも思わない子供がここにいた。

「頼むからお前は寝てくれー」

寝苦しくして眠りが浅いRが雑音でますます眠れなくなってしまう。

闇とはすなわち「病み」である。明るいRの姿が見たい…。
まさに女医スティックになってしまうではありませんか。

問題:水分補給が必要だろうとRを麦茶を飲ませながら考えていたことは何でしょう?

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