テレビ電話には罠がある

娘・R(3才)と息子・タク(1才)を連れて、嫁が一族の法事のために実家に帰って行った。

だから今夜はひとりで留守番なのである。

「夜、携帯からテレビ電話してあげるからさ。何時ごろかいい?」

寂しがる僕のロンリーハートを悟ったのか、朝出かける時に嫁がそう言ってくれた。

「7時ぐらいかな。残業してると思うけど」

「わかった」

先月も嫁と子供達が帰ったことがあって、その日は僕は仕事が休みだったのだが、やはりテレビ電話がかかって来て大いに慌てた。何故ならばこの時僕は、よりによって池袋乙女ロード裏にあるメイド喫茶にいたんである。着信音が鳴った時は適当に誤魔化せばいいやと油断していたが

「もしもしー。今からテレビ電話にするねー」

「うをああああー。ちょ、ちょと待ってー!」

メイド姿のおねいさんが映ってしまった日には

「アンタなにやってんの…」

と呆れられて一巻の終わりなので、慌てて店を出た。

「い、いやあ、今、外なんだ。小鳥さんのさえずりに誘われてお散歩してるの」

果てしなく怪しげに誤魔化したものである。今日は仕事なのでおそらく会社にいるだろうが、もし敢えて仕事の進行を顧みず定時ダッシュで会社を出、おっぱいパブだとかノーパンしゃぶしゃぶ(まだあるんだろうか)等のいかがわしい店に行ったらどうなるだろう。意味もなく自らを敢えて崖っぷちの危険な目に遭わせたくなることもある。もしそんな店にいた時に嫁からテレビ電話がかかって来たら…。

「あなたー。今会社?」

「そうだよ」

「…あなたの会社っておっぱい丸出しで仕事すんの?」

「え、おっぱい映ってるの?それは心霊映像だよ。うちの会社、よくおっぱいの霊が出るんだよ」

とか

「…あなたの会社の女性ってどうなってんの?スカートの中からタワシみたいな黒いのが蠢いているのはどういうことなのよーッ」

「ああ、うちの会社、よく出るんだよタワシの霊が…」

「私は無修正動画見たくてテレビ電話したんじゃねー!エロ動画見放題サイトかお前は!」

おそらく物凄い修羅場になるとは思うが…などと妄想しながら仕事をしていたらあっという間に7時になってしまった。オチャメする余裕などなかった。現実は厳しい。そろそろ嫁からかかって来るはず…と一旦オフィスを出て、トイレ脇の通路の端っこ、誰もいないところでスタンバった。仕事場でテレビ電話など恥ずかしくて出来ないからである。

…しかしかかって来ない。僕のことなど忘れているのだろうか。ないがしろにされると、家に帰ってエッチなお姉さんに来てもらっちゃうぞ。待ちきれなくて自分からかけた。

「もしもしー!ギャハハハハ!ぱぱー!ぱぱー!」

テレビ画面に一気に出て来た嫁とRとタクは騒がしいことこの上ない。特に子供達は画面で僕の顔が動いていることが相当面白いらしく、はしゃいでしまい会話どころかギャアギャア暴れまくってちっとも画面に映ってくれない。

電話でもできるだけ面と向かって話したい…と思って電話したのに却ってその実感がまるでなかった。

「あー…ちょっとママに変わって」

「はいはい、私。あ、そうそう明日のことなんだけどねー」

「おいおい、もう普通の音声電話でいいだろう。切り替えるぞ」

テレビ電話にしたのは子供達の姿が見たいからであって、おっぱいぽろりのひとつも見せてくれない嫁の姿などどうでもよい。明日嫁実家まで迎えに来てくれ、という嫁の話を聞いて電話を切った。

テレビ電話の現状は映像が汚いし不便である。もう少し「顔を合わせて話している」という実感が出るものになるといいんだけど…。もっとテクノロジーが進化して、映像だけでなく、実体も電話越しに取り寄せられる「実体電話」が発明されれば…あ、そりゃただの「どこでもドア」か。

家に帰ってそんなことをモンモン考えるロンリーナイト。実体電話、すなわちどこでもドアがあればエッチなお姉さんもすぐ来てくれて便利なのだが…いやいや、いくら邪魔者がいない夜だからって呼びませんよ。

どこでも!ド!あぁ~ん


ちなみにこれは、イメクラデリバリーヘルス、
「どこでも!ド!あぁ~ん」(http://docodemo.muvc.net/)

…いやいや呼びませんよ。

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