旅とフナムシと女とヒデキ


嫁と娘・R(3才)と息子・タク(10ヶ月)が旅行から帰って来た。

「面白かったかい」

「うん。まあ」

「どこ行って来たの」

「箱根の旅館に泊まって、温泉入って、帰りは真鶴の海で遊んで来た」

よかったですね、嫁。こちとら土曜出勤でしたのよ。

「Rちゃんは何が一番楽しかったのかな?」

「うみ。もうこわくないの!」

先月連れて行ったときは波を怖がって「うみ、きらい!」とまで言っていたのに。

「私は海はちょっと…だったなあ。フナムシがわんさかいて」

「岩場の海だったのか?」

逆に嫁の方が嫌だったようだ。嫁はフナムシを親の敵のように嫌う。確かにあの陰毛に足が生えたような風貌は僕も苦手である。

「それでさー、考えてたんだけど」

「何だ」

「紀子さまのお子さんの誕生日ってRちゃんと一緒じゃない?9月6日」

「あっ!そういえば…」

ここで嫁が言っているRちゃんとは、娘のRのことではない。かつて近所のゲーセンでバイトしていた、美少女Rちゃんのことである。当時「beatmania」というゲームにはまっていた僕はそのゲーセンでRちゃんと知り合い、beatmania以上にRちゃんにはまってしまった。

彼女とは毎日のように会っていたのだが、ゲーセンを辞め、一時期メイド喫茶で働いていたりしたがそこも辞め、また違うゲーセンでバイトして…そこも辞めてからは音信普通になってしまった。

僕でさえ忘れていたRちゃんの誕生日を何故嫁は覚えていたのだろう。そして僕は何故忘れていたのだろう。おそらく…Rちゃんのことを思い出すたびに、何故連絡をくれないのか…所詮その程度の付き合いだったのか…結局そこに苦悩することになるので、最近は心の奥に記憶を眠らせていたのではないか…と思われる。

「でもお前、よく覚えてたね」

「私も誕生日プレゼントあげたことがあったから」

ああ、そんなこともあったなあ。嫁に惚れた女の誕生日にプレゼントをさせるとは、なんて僕は最低の男だったのだろう。そうだ。僕はフナムシだ。時々嫁は僕をフナムシを見るような目で睨む。今回の僕置き去り旅行もそのような気持ちがあったはずだ。

「ていうか何でそんなことを旅行中考えてたんだよ!」

「いやー。旅館の夜って長くってさあ。なんかつらつらと色んなことが浮かんでは消えて…」

暗闇は過ぎた過去を振り向かせる。昔の歌に

「若さってなんだ。振り向かないことさ」

という歌詞があったが、それに沿えば僕らは若くないのかもしれない。若いということは素晴らしい。フナムシ的行為も平気で出来る。行為自体の是非はあるが、その命知らずのマインドが僕には眩しい。今の若い人も僕には眩しい。ヤングマン。さあ立ち上がれよ。ヤングマン。今翔びだそうぜ。ヤングマン。もう悩むことはないんだから。

素晴らしい。フーナムシーエー。


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