青年の出張。


7月7日は七夕であると共に結婚記念日である。

そのような一大記念日なのに、よりによって滅多にない泊りがけの出張命令が出てしまった。去年の結婚記念日は全然大したことをしてなかったので、今年こそは7月7日というロマンティックな日に、ロマンティックとエロティックが止まらないことをしようと企んでいたのに。

出張場所は和民であった。じゃなかった熱海であった。

打ちひしがれた思いでホテルに入ると、11階の僕の部屋はこれまた自殺して下さいと言わんばかりの断崖絶壁のオーシャンビュー。ほぼ180度が曇天の海で、絶望の眺望であり、11階の窓からそのまま

「ババンババンバンバン、また来世ー」

と投身したくなった。当然その夜はネットに繋がることも出来ず、女体と繋がることも出来ず。

ああ早く帰りたい、嫁の顔を見たい、娘・R(2才)と息子・タク(9ヶ月)と戯れたい、ただその思いだけで仕事をこなしたところ、不幸中の幸いにも翌日の昼頃家に帰ることが出来た。

「ただいまー。久しぶりー。パパだよーん」

慣れぬ遠方での仕事で身も心も疲れていたが、みんなまとめて抱きしめてやる、ぐらいの勢いで家のドアをバーンと開けたところ…誰もいなかった。

みんなどこ行っちゃったんだろう。もしかしたら僕は既に海に身を投げていて、入れ違いに熱海に僕の土左衛門を引き取りに行っているところなのだろうか。この異常なほど疲れている体の重さのまま、僕は幽霊としてたゆたっていくんだね…、そんなことを考えてしまった。

じゃあ今キーボードを打って、アップロードしたこのWEBサイトは何なのか、というと…世界初・霊が書いたブログ、ということになるのだろうか。

「今日は血の池地獄でした。いやもう熱いなんてもんじゃない。いっそ殺せ、と思ったけどもう死んでるし。あとなんか知らないけど上から蜘蛛の糸が垂れていたので、それを伝って登ろうとしたら、他のみんなもよじ登るから切れて落ちてしまいました。みんなアホだ、死んでしまえと思ったけどやっぱりもう死んでるし」

なんて…。地獄にもネット回線はあるんだろうか。

ともかく僕は腹が減っていた。忙しさと緊張のあまり、出張中はほとんど食欲がなかった。早く帰ってきてくれないだろうか。空腹のあまり変な妄想が次から次へと出てくるではないか。

一緒にいることすらも出来ない、今年も本当に何もない結婚記念日だったなあ…。おまけにこんなひもじい思いをして…。

栄養出張。なんつって。


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