君はまだ、シンデレラさ


朝5時。年寄り並みの早い時間に嫁は目覚める。

「Rちゃん、じぶんで、しゅーできるのよ~」

これは娘・R(2才)の言葉である。翻訳すると

「Rちゃん、ひとりで、滑り台できるのよ~」

ということである。Rは石橋を叩いて渡らない、というか石橋を人に叩かせて(主に僕)渡らず、渡らせようとすると逆切れする、非常に臆病なところがあり、公園に行っても滑り台を怖がり、ひとりで滑れなかったのである。滑り台クリアは我が家でのRの重点課題のひとつであった。

同じぐらいの子供達はばんばんやりまくっているのに、何故うちの子だけ…と、周りのみんなはは女の子とばんばんやりまくってるのに、何故僕だけ…、と思い悩んでいた思春期の苦い思い出が蘇ってきたりした。しかし

「こないだやっとできるようになってさ」

嫁と公園で遊んでいるうちに、ようやくクリアしたらしい。

「じゃあ今度パパが会社休みの日に見せてね」

「うん」

僕もその勇姿を見てみたかった。毎朝会社に行くたびに

「じぶんで、しゅーできるのよ~」

繰り返し言うのでRもよほど得意だったのだろう。

ようやく仕事休みの日、

「じゃあ滑り台の腕前を見せてもらいましょうか~」

近所の公園に出掛けた。昼下がりの公園は人気がなく、ベンチで焼け焦げた顔色のホームレス紳士が2人ほど眠りこけているだけであり、親バカ全開でカメラで写真を撮りまくっても恥ずかしくない。

早速Rに滑り台をやってもらうと、今まで怖がって泣き叫んでいたのが嘘のように、するすると階段を登り何のためらいもなくしゅーっと滑り降りてきた。

「パパ、見て~」

Rはめちゃくちゃ得意気にまた階段を登って行く。「大人の階段のーぼるー」という歌が頭の中で繰り返しかかりまくって、こうしてひとつひとつ大人になっていくのだなあと、嬉しい反面、少しだけRとの距離が遠のいてしまったような寂しさも覚えた。

今はちょっとでも疲れると「パパだっこ…」と甘えてくるが、成長すればひとりで何処へでも行ってしまうだろうし。そのうちひとつひとつ出来るようになるのを聞くことになるたびにそう思うことになるだろう。

「パパ、鉄棒できたの」

「おお、じゃあ一緒にやろうね」

「パパ、引き算できたの」

「おお、じゃあ一緒にやろうね」

「パパ、彼氏できたの」

「おお、じゃあ一緒に殺ろうね」

ふあああああ!目の前が真っ暗になりそうなくらい錯乱していたら、嫁が息子・タク(7ヶ月)をおぶってやってきた。

「すごいね」

「うんR、すごいね。ちゃんと滑り台できてたよ。見せてもらってたよ」

「いや、あの人のことなんだけど…」

嫁は寝ているホームレス紳士を指差したので、見てみると

寝相
うおお、こっちの方がなんだかスゲー!

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